前回の記事はこちら:新規事業テーマ発掘への生成AI活用と、コア技術との組み合わせ方
様々な言葉や定義がある一方、アイデアを考えて、世に商品やサービスを出して、それを成長させるという意味では、いわゆる普通のビジネスと新規事業は同じです。
最初にアイデアを考えて、ニーズの有無や市場規模、自社の強みが生かせそうかどうか、といったことを市場調査します。事業計画を作り、事業を評価して、経営会議を通って予算が下りて、じゃあプロトタイプでも作ってみよう、となります。最近はこのプロトタイプが事業計画の前に作られることも増えてきています。
オーソドックスなケースでは、この段階で試作品を作り、実際にターゲットユーザーに触ってもらったり、ちょっと違うときは修正して、マネタイズのビジネスモデルを変えたりする時も多いです。
最終的にこれで行こう、と決まると、メーカーならば量産化プロセスを決定したり、クラウドファンディングに出してみたり、ということも増えています。


いずれにせよ、会社はこの辺でようやく大きな投資に踏み切るかどうかを判断して、プレスリリースを打ったり、広告宣伝をしたり、事業活動としてアクセルを踏んでいくというプロセスです。スタートアップであれば、この辺りで資金調達を行う場合もあります。
事業創出の期間は、一般的な企業の場合、早くて半年。通常では1年程度です。
製造業の場合、通常と言っても市場に投下されるまで2~3年かかる場合が多いです。
しかし、この図の「1アイデア考案」や「4事業評価」、テストマーケティング等の工程をずっと繰り返す企業も少なくありません。途中で様々な落とし穴や谷が存在するのが、新規事業のプロセスです。
これからお話しするのは、この「1 アイデア考案」の部分です。
実際、最初のアイデア出しに悩む企業は非常に多いです。
少し古いデータですが、野村総合研究所による新規事業支援に関する実態調査では、1位が「有望な事業アイデアが少ない」という悩みでした。
そして今日のメインテーマであるAIは、「アイデアが出ない」時の解決策として注目されています。
「アイデアはもうAIに聞こう!」と60日間で275件の事業創出をしたHustle GPTのようなAI活用サービスでは、ChatGPTの指示に従って23件の事業は既に黒字化したそうです。途方もないスピードで新規事業展開をしていると報じられています。
子供向けですが、「自由研究おたすけAI」というサービスも登場しました。自由研究は親にも子にも相応のアイデアが必要で、やりたいことを思いつかない人に対してアイデア出しをAIが手伝ってくれるサービスで、ベネッセコーポレーションが小学生向けに提供しています。
エリーワークスという不動産会社は、慶応大学と共同でAIを活用した研究を行い、不動産にとどまらない新規事業の創出を目指すというニュースも報じられました。AIはアイデアが出ないときの解決策として、既に社会実装されて使われているのです。
では、今日の本題である新規事業のテーマ発掘に成功する方法について、2つのポイントをお伝えさせてください。
弊社で120社を支援してきた中で見えてきたことは、
① 事業アイデアやテーマ案は初期仮説だと知ること
② その傾向と対策
です。
まず①、アイデアは“初期仮説”です。
アイデアの質は重要ですが、初期仮説と言えるのです。
そんなのは当たり前だと思われるかもしれませんが、新規事業に取り組んでいると、「そうは思えない」という方が実は大半です。
アイデア考案後のプロセスにも不確実性は残るため、多くの場合に製品化や販売のハードルがあります。当然、良いアイデアは成功により近いものですが、一方で、アイデアの質に過剰にこだわりすぎて機会損失をすることもあるのです。
スタート時点ではそんなに悪くなく、でも二重丸をつけられるほどの良質なアイデアではなかったとしても、まずは検討を進めてみたり、施策を作ってみたりすることで成功するケースも存在します。
実際、ほとんどの新規事業アイデアにおいて、着想したときのままの形を留めることは、私の経験上で非常に少ないです。当初から全く異なるアイデア、形に変わっているケースもあります。
つまり、アイデアの期待値をほどほどにしておくのも重要なのです。
例えば、ラクスルさんは日本のユニコーンと呼ばれる 時価総額1000億を超えるスタートアップですが、創業者の松本さんは「アイデアだけでは成功しない」と断言されています。
松本さんは日経ビジネスのインタビュー記事で、うまくいった秘訣を質問されて、
「積み重ねです。アイデアだけでは絶対にうまくいかないと思いました」
「アイデアだけでは成功しない、アイデアを磨き切ることで事業は拡大します」
「アイデアを出すことではなく、ブラッシュアップし続けることに価値があります」
と、繰り返しおっしゃっていました。
これには私も非常に共感します。アイデア1発で成功した事業に一体何があるのか?と思うほどです。
さほど成功例は無いのに、なぜか神話のように多くの方が優れた初期仮説にこだわる傾向が見られます。良いアイデアにこだわりすぎると、手数を少なくしたり、機会損失をしたりすることをまずは意識として持っておくのが重要と思います。
参考記事:新規事業を立ち上げる5つのプロセスとは?「掛け合わせ」アイデア思考法についても解説
続いて、② 傾向と対策について。
新規事業でなぜ傾向と対策か。
新規ビジネス提案なのに迎合しているように感じる方もあるかもしれませんが、当社はこれを必要と考えています。
理由は、「どんなに良いアイデアでも、 社内で通らないと成立しない」からです。ここが、会社の外で、自分1人で起業することとの最も大きな違いです。
社内で通らないと意味が無い。では、社内で通るためにはどうすればよいのか?
その傾向と対策を知ることが重要なのです。
118社のご支援をした中で、39社にお客様の新規事業アイデアをご提供しました。


当社に発注いただく新規事業開発室や経営企画室の部署は、例えば社長から新規事業を考えるよう指示されたチームの方々だったりします。そこで当社の新規事業アイデアに対し、「このアイデアが良い」「これは深掘りしてみる」と言っていただけたものをカウントとすると、89.7%になりました。
そして会社で正式承認され、経営会議等で人と予算、組織がついたものが75%ということになります。
いわゆるコンサル的な助言も当社では行いますが、それだけではなく、我々自身が起案者としてお客様から○か×かのジャッジを受ける仕事を日々やってきています。
そうやって多くの会社の新規事業案を作り、その社内の関門を突破してきた我々としては、やはり傾向と対策が非常に重要だと思います。
ここで考えてみてください。「成功するアイデア」とは、「いつも評価されるアイデア」なのでしょうか?


そうではない、と私は考えています。
画面では横軸に成功する・しない、縦軸に評価されやすい・されにくい、とあります。
当然この1番を皆さん目指すわけですが、往々にして2番、3番が存在します。成功しても評価されない、または本当は失敗したのに評価されてしまった、ということがあるのです。
実は、特にこの2番のパターンは枚挙にいとまがありません。
スタートアップの登竜門であるピッチプレゼンテーションコンテストは日々開催されていますが、そんなイベントで評価されなかった事業がその後上場したり、ポジティブなM&Aをしたり、ということが多数あります。
例えば、マネーフォワードやクラウド会計のfreee、グノシー等のサービスは、コンテストで評価されなかったけれども後で成功しました。まさにこの証左でしょう。
以前、あるお客様の社内ビジコンを当社がお手伝いした際のことです。
社員からビジネスアイデアを募集するにあたり、「どんなビジネスを評価者が期待するか(採用されやすいか)」を社員向けにメッセージングしました。その内容は次の通りです。
社員さんから上がってきたアイデアには、評価されにくいアイデアも実際にありました。この画面にあるように、お金の匂いがしない、成果が出るまでに極端に時間がかかる、当社のイメージを損ねる、等です。


この“評価されやすいアイデア・評価されにくいアイデア”は、皆さんの会社での採用基準と、どれくらい共通していると思いますか?
同じところも、違うところもあるとは思います。
「新規性はそこまで求められてない」とか、「このライツビジネスは業界特有だから」とか、会社ごとに個性があるでしょう。
私が“傾向と対策”と申し上げているのは、まさにこの点です。
会社ごとに、良いアイデアの基準、採用されやすいアイデアは違う、だから知る必要があるということです。
そして会社ごとに違う理由は、「会社ごとに新規事業のスイートスポットが異なる」からです。


上の図では、現在の事業、つまり現在地は左下です。
今売っている商品やサービスは、既存のお客様に販売しているということです。
新規事業支援の場でお客様からよくお聞きするのが、「社員から出てくるアイデアがほとんどオプション商品ばかりだ」とか、「さすがにこれは遠すぎだ、飛び地のアイデアだ」 というお話です。
ということは、消去法で考えると、ちょうど良い“距離感”、つまり私がスイートスポットと呼ぶ“距離感”が存在します。この、挑戦する意味がある、または新規事業と呼べる“距離感”は会社ごとにかなり違います。
儲かれば何でも良いだろうと思うかもしれませんが、かなり繊細に会社ごとに違うので、このスイートスポットがどこなのか、どこまでなのかを把握するためにも、傾向と対策は非常に重要なのです。
では、その“傾向と対策”が会社のどこに潜んでいるのか?というと、社内ビジコンがある会社でしたら、その募集要項です。大抵の場合、そこに言葉としてしっかり書かれています。
実例として、あるメーカーさんのビジコン募集要項をご紹介しましょう。
その長文の募集要項を読み解くと、審査の重要なポイントは「世界観への共感」と「アイデアの独自性」であることがわかりました。
「アイデアの独自性」の説明文には、「着眼点が、かつてなかったような斬新さがある」という表記があり、当然ながら新規性を重視していること、新しくなければ通らない可能性大で、攻めなくてはいけないことが伝わってきます。
「アイデアの実現性」の説明文では、「ムーンショットレベルの壮大なアイデアを歓迎します」とありました。
実現性と新規性はたいていトレードオフの関係にあります。よって、非常に大きな事業であるという点を、事業アイデアを提出するときにしっかりアピールする必要があることも読み取れます。
さらに、「アイデアの実現が社会課題の解決に貢献するか」という審査ポイントが書かれていました。同様の一文は様々な会社で見かけます。
実は、人を騙してお金を稼ぐようなビジネスではない限り、たいていの場合は社会課題と関連しているのです。エンタメ性の高いものだったとしても、人の孤独の解消等、様々なことに寄与しているのです。
社会課題の関連性というキーワードがある場合は、「こういった点が社会課題、この社会課題と非常にリンクしています」と明言する必要があると捉えてください。
このように、ビジコン募集要項そのままのものもありつつ、どんな内容をアピールする必要があるのか、それを頭の中で変換して新規事業企画を書くのがポイントです。
社内ビジコンが無い場合でも、「会社として目指す方向」は少なくとも3ヶ月に1回ぐらいは会社側から話があるケースが大半でしょう。そういったメッセージは経営者側も従業員に理解してもらいたいので発信するのです。
特に見るべき資料は、会社の中期経営計画、いわゆる中期事業戦略です。社長、役員、部長クラスの方の発言やインタビュー記事にも、同じ言葉を繰り返しているものがあります。
こういった言葉から傾向を読み取るわけですが、私が申し上げる“傾向と対策”は、「会社として目指す方向に迎合していきましょう」というものではありません。
迎合を進めるのではなく、あくまでもご自身の考えを主軸としてください。
矛盾するように聞こえるかもしれませんが、私は本当にそう考えているのです。
必ず、ご自身の考えを主軸にしてください。
この主軸をそのままに、会社が目指す方向との一致を探してください。
一致を探して、それを明言して証明することが非常に重要です。
これが我々の言う“傾向と対策”の一番のポイントです。
会社が目指す方向に、合わせに行く・寄せに行くのが一番重要なのではなく、ご自身が考えたものがいかにリンクしているのかを表明し、証明することこそが重要です。
その際、そこで(会社が目指す方向として)使われている“用語”は、そのまま使いましょう。決して他の言葉に言い替えないでください。
例えば、「脱炭素」という言葉がありますが、仮に皆さんの会社の社長が発する重要なメッセージの中に「脱炭素」があったなら、それを「ネットゼロ」などに言い替えたりしないでください。
そういう言葉はそのまま使うのです。ちょっとしたことですが、これも“傾向と対策”におけるポイントです。
実際、採用される新規事業案は、会社の目指す方向の先にあることが多いものです。会社の事業の先というよりは、会社が「ここを目指す」と言ったことの先に存在しやすい。
新規事業案が会社の目指す方向と一致しているなら、ここも加点されやすいので重要です。
なぜそんなことをしなくてはいけないのか、という点についてお伝えします。
私はお客様の社内から集まった様々な新規事業案を、社長や役員が検討する会議に審査員として出席させていただくことがよくあります。
これは儲かるか?これはいけるか?という話が一番の論点かと思いきや、評価者の中で賛成と反対が一番分かれるポイントは、「なぜうちの会社がこの事業をやるのか」ということです。


新規事業は「儲かりそうだから」という理由だけで進むのは稀、と言ってよいでしょう。
意外かもしれませんが、「なぜうちの会社がこの事業をやるのか」という点について、社内コンセンサスをとるのに非常に多くの時間がかかります。
これは私が新規事業支援を始めた時に、想像と違っていたことの1つでした。
特に製造業のお客様では、この傾向が強いと言えます。なぜうちの会社がこれをやるのか、そこで議論が起こり、多くの時間を取る傾向にあるのです。
一方で、会社がやるべき事業だと明言できている事業案は強いですし、会社がスローガンにしているものも特に反対しづらいです。
そこで先ほどの“傾向と対策”です。「会社の目指す方向とこういう点で一致しています」としっかり明言するのです。
「こんなのは皆も分かるだろうから省略しておこう」ではなく、意見が割れるような場面では非常に重要なのです。
AIに関係ないようなところですが、意外と見落としがちな重要な点なので、繰り返しお伝えさせていただきました。
参考記事:通る新規事業企画書の書き方とは?通過率が劇的に改善するチェックリストも紹介!
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