一般的にワークショップは、新規事業開発に効果的であるとされています。
本コラムでは、新規事業開発にワークショップが効果的な理由と活用法について解説します。
目次
新規事業の成功には「アイデアを形にして実行に移す力」が欠かせません。
多くの経営者がイノベーションの重要性を認識しているものの、実際には満足のいく成果が出せていません。
ある調査では、経営層の84%がイノベーションは成長戦略に極めて重要だと答えた一方で、自社のイノベーションの成果に満足している経営者はわずか6%に過ぎなかったと報告されています。
このギャップは、「知っている」と「できる」の違い、つまりアイデアや知識はあっても実践できていない現状を示しています。
スタンフォード大学のジェフリー・フェファー氏とロバート・サットン氏は、多くの企業が直面する「知行合一(Knowing-Doing)のギャップ」を指摘し、「人は本を読むだけでは泳げるようにならない。水に入って練習することで泳ぎを習得する」と述べています。
これは、実践によって初めて知識が行動に移されるという意味です。
ワークショップは、まさにこの「実践の場」を提供します。
具体的には、参加者が手と頭を動かしながら課題に取り組むことで、頭で理解している知識を実行に移し、行動に落とし込みます。
ワークショップはチームの創造力を引き出す効果もあります。
普段は部署ごとに分かれているメンバーも、ワークショップの場では立場を超えて意見を出し合わなければなりません。
異なる視点を持つ人々が協力することで、1 + 1が3にも4にもなるようなシナジーが生まれ、新しい発想が飛び出しやすくなります。
実際、企業内の社会的な対話や共同作業がイノベーションに極めて重要であることが指摘されています。
ワークショップでアイデア創出や事業モデルを設計する際には、効果的なフレームワーク(枠組み)や手法を活用することがポイントです。
代表的なものとしてデザイン思考(Design Thinking)、ブレインストーミング、ビジネスモデルキャンバスなどが挙げられます。
それぞれの概要とワークショップへの活用方法を見ていきましょう。
デザイン思考は、ユーザー中心の問題解決手法です。
共感・アイデア出し・プロトタイピング・テストを通じて革新を生み出します。
デザイン思考をワークショップで活用するには、共感、定義、アイデア出し、プロトタイピング、テストのステップを実践的に進め、参加者がユーザー視点で問題解決に取り組む環境を提供しましょう。
ブレインストーミングは、アイデアを自由に出し合い、創造的な解決策を生み出すグループ討論法です。
ブレインストーミングをワークショップで活用するには、自由にアイデアを出し合う場を設け、批判を避け、量を重視して多様な視点を引き出し、創造的な解決策を導きましょう。
ビジネスモデルキャンバス(BMC)は、企業のビジネスモデルを9つの要素で視覚的に整理・分析するフレームワークです。
BMCをワークショップで活用するには、参加者が9つの構成要素を使って自社のビジネスモデルを視覚的に整理し、改善点や新しいアイデアをグループで議論しましょう。
机上の理論だけでなく、実際にワークショップを取り入れて新規事業開発に成功した企業の事例を見てみましょう。ここでは製造業の事例を含むいくつかの成功例を紹介します。
世界的な製造業であるGE(ゼネラル・エレクトリック)は、従来の大企業にありがちな官僚的プロセスを打破し、スタートアップのように俊敏に新事業を生み出すために、社内に「ファストワークス(FastWorks)」と呼ばれるプログラムを導入しました。(出典:gereports.ca)
「ファストワークス(FastWorks)」は、リーンスタートアップの手法を大企業向けに応用したものです。
GEでは、社内にリーンスタートアップのコーチを育成し、従業員をトレーニングしながら数百のプロジェクトで「ファストワークス(FastWorks)」を実践しました。
その結果、顧客のフィードバックをもとに試作・検証を素早く繰り返す文化が根付き、顧客ニーズに迅速に対応できるようになりました。
また、GEの「デュラソン電池」では、早期に顧客テストを実施し、フィードバックを得ながら改良を重ねた結果、革新的な蓄電池を開発しました。
ソフトドリンクやスナック菓子で知られるPepsiCo(ペプシコ)では、経営トップの主導でデザイン思考を取り入れたイノベーションが推進され、大きな成果を上げました。
一例として、元CEOのインドラ・ヌーイ氏はデザインの重要性を強調し、あらゆる重要な経営判断にデザイン部門が関与する体制を築きました。(出典:blog.experiencepoint.com)
具体的には、消費者の潜在ニーズを探るワークショップを商品開発プロジェクトごとに開催し、試作品に対するユーザーの反応を徹底的に収集して商品改良に活かすというプロセスを繰り返しました。
その結果、ヌーイ氏がCEOを務めた12年間でペプシコの売上高は80%も増加し、同業界で際立った成長を遂げました。
この成功要因についてヌーイ氏は「デザイン(思考)がほぼすべての重要な意思決定に声を持っていた」と述べており、ワークショップなどを通じてデザイン思考を組織に根付かせたことが業績向上につながったと語っています。
ペプシコの事例は、消費財メーカーにおいてもワークショップ形式での顧客理解・アイデア創出が新商品ヒットと業績拡大に直結した好例と言えるでしょう。
ソフトウェア業界では、ワークショップ的手法であるリーンスタートアップやハッカソン(社内開発コンテスト)が次々と成功を生んでいます。
オンラインストレージサービスを提供するDropbox社や民泊仲介サービスのAirbnb社は、創業当初から最小限の製品(MVP)を市場に出してユーザーの反応を見るという反復実験を重ね、大きな成功を収めました。
一例として、Dropboxはサービスのコンセプトを説明するシンプルな動画を作成してユーザー反応を検証し、ニーズを確信してから本格的な開発に乗り出しました。
また、Airbnbも創業当初は手作りの簡易サイトで需要を試し、その後ユーザーのフィードバックを基にサービスを洗練させています。
こうしたMVP検証型のアプローチにより、両社は無駄な開発投資を避けつつユーザーに本当に望まれるサービスを素早く提供しています。(出典:gereports.ca)


ワークショップで有望なアイデアが生まれたら、それを実際の事業に育て上げるためのステップを踏んでいく必要があります。
ここでは、ワークショップ後に新規アイデアを事業化するプロセスとポイントを解説します。
ワークショップで出たアイデアをそのまま実行に移す前に、もう一度チームで振り返りましょう。
どんなに斬新なアイデアでも、実現可能性や市場性を冷静に評価するステップは欠かせません。
該当のアイデアが解決しようとしている課題とターゲット顧客を明確に定義してください。
具体的には、「本当にこの課題は存在するのか?」、「ターゲットとする顧客は誰で、どれくらいその課題を深刻に感じているか?」といった点を掘り下げます。
次に、ビジネスモデルキャンバスなどを再度活用して、収益モデルや必要なリソース、競合優位性などを検討しましょう。
ワークショップには、参加していなかった社内の関連部署(例えば財務や法務など)の意見も取り入れ、現実的かつ説得力のある事業計画にブラッシュアップしてください。
机上のプランに終始せず市場リサーチしたり、業界の専門家に見解を求めたりするのも有効です。
アイデア出しでお困りの方は、3つの独自アプローチにより潜在的なアイデアを引き出す当社のアイデアプランニングをご利用ください。
事業計画の骨子が固まったら、次はMVP(実用最小限の製品)を作成し、テストしましょう。
MVPとは、製品やサービスの核となる部分だけを実装した試作品のことです。
機能や規模は限定的でも構わないので、できるだけ早くユーザーに使ってもらい、フィードバックを得ましょう。
ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授によれば、「毎年発売される新製品のうち実に95%が失敗に終わる」とも言われています。
闇雲にフルスペックの製品を開発して投入してしまうと、この「95%の失敗組」に入ってしまう恐れがあります。
そうならないために、MVPで小さく検証しましょう。
MVPをテストする際には、できれば実際の顧客に使ってもらうのが理想です。
社内の人間だけで評価してもバイアスがかかる可能性があるため、ターゲットユーザーに近い層からフィードバックを集めましょう。
場合によっては、既存顧客や友好な顧客に協力を依頼し、ベータテストの形で試してもらいましょう。
MVP(Minimum Viable Product)の開発と検証で重要なのは、ポジティブな意見だけでなくネガティブな意見もしっかり収集することです。
ユーザーが感じた不満や不便さは何か、想定した価値をきちんと提供できているか、といった点を確認してください。
そして、その結果を踏まえて製品やサービスを改善するか、あるいは方向転換(ピボット)するかを判断しましょう。
マッキンゼーの報告によると、とある自動車メーカーは新サービスのMVPを地域限定で展開しテストしたところ、わずか半年で数十社もの有料顧客を獲得し、数百万ドル規模の契約を得ることに成功しました。
MVP検証は、単に市場の反応を知るだけでなく、社内の意思決定者を説得する材料にもなります。
新規事業を本格展開するには、社内外の関係者を巻き込むことが欠かせません。
一例として、社内では、経営層や関連部署からの支援を取り付ける必要があります。
ワークショップでの成果やMVPテストの結果をレポートやプレゼンテーションで共有し、事業の可能性をデータに基づいて示すようにしましょう。
ユーザーからの好意的なフィードバックや有料顧客の獲得事例は、強力な後押し材料になります。
また、新規事業には人材や資金などリソースの投入が伴うため、社内調整役(例えば新規事業担当役員など)を巻き込み、経営陣に対する提案を支援してもらいましょう。
社内の協力体制が整ったら、社外のステークホルダーに対応しましょう。
新規事業によっては、販売パートナーや規制当局、あるいは協業企業などとの調整が必要になる場合があります。
企画段階から関係者にヒアリングしたり、場合によってはワークショップに招いたりして意見を取り入れましょう。
とくに、潜在顧客やユーザーコミュニティの巻き込みは、新規事業を軌道に乗せるうえで非常に重要です。
一例として、Adobe社の調査では、デザインを重視する企業の78%は新しいアイデアを出す明確なプロセスを持ち、83%は顧客と一緒にアイデアをテストする正式なしくみを持っているとされています。
また、実際に製品ローンチ前にリードユーザー(先進的なユーザー)と共創イベントを開始し、製品改良につなげる企業も増えてきています。
新規事業の立ち上げ段階でも社外の協力者をうまく巻き込むことで、製品・サービスの市場適合性が高まり、ローンチ後のスムーズな展開と顧客獲得につながります。
最後に、ワークショップなどの手法を導入することの効果をデータで確認し、新規事業担当者への提言をまとめます。
日本の中小企業白書(2017年)によると、日本企業の新規事業の成功率は約30%に過ぎず、70%は撤退や失敗に終わっていると報告されています。
また、米国でもベンチャー企業の約90%が数年以内に失敗すると言われており、新規事業がいかにチャレンジングかがわかるでしょう。
このような低い成功率の背景には、アイデアはあっても適切な検証や実行ができていないことが一因として考えられます。
実際、前述のように多くの経営者が自社のイノベーション推進に不満を感じている(満足しているのは6%のみ)のも、従来型のやり方では成果創出が難しいことを物語っています。
新規事業の成功率について詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
「新規事業の成功確率は5%」は本当か? -データで読み解く成功確率-
マッキンゼーの調査によると、デザイン思考などを取り入れて継続的にイノベーションを実践している企業は、そうでない企業に比べて収益が3割高く、株主総利回り(総株主利益)も56%高いという結果が出ています。
また、デザイン主導の企業グループは株式市場において他社平均を228%も上回るリターンを叩き出しました。
これらの結果は、創造的なワークショップやデザイン思考を企業文化に組み込むことで、長期的に見て業績や企業価値に大きなプラス効果があることを示しています。
さらに、2022年のマッキンゼー・グローバル調査では、新規事業構築を経営の最優先事項に据えている企業の68%が市場平均以上の成長を遂げているとも報告されました。
以上のデータから明らかなように、ワークショップを活用した体系的なアイデア創出・事業モデル設計のプロセスを取り入れることは、新規事業の成功確率を高め、ひいては企業の成長に直結します。
現状において自社のイノベーション活動に課題を感じているのであれば、まずは小さな取り組みからでもワークショップを導入し、社内の創造性と実行力を引き出す環境づくりを始めてみてください。
「知っている」を「できる」に変える一歩を踏み出すことで、30%の壁を突破し、次なる成長を生み出す原動力が得られます。
新規事業担当者として、データが示す確かな効果を味方につけ、ぜひ社内外の仲間を巻き込みながらイノベーションへのチャレンジを加速させていきましょう。
今回は、新規事業開発にワークショップが効果的な理由と活用法について解説しました。
新規事業開発において、ワークショップは単なるアイデア出しの場ではなく、実際のビジネスに直結する重要なプロセスです。
ワークショップを活用することで、チームの創造力を最大限に引き出し、現実的なビジネスモデルへと昇華させられます。
また、ワークショップの手法を取り入れた企業は新規事業の成功率を高め、競争優位性を確立できます。
貴社の新規事業開発にワークショップを取り入れ、新たな成長の機会を生み出してみてください。

