執筆者:unlock 長塚
新サービスの開発時に欠かせないサービスのネーミング決め。どのようにしたらいいか悩む方も多いのではないでしょうか?
悩むポイントの一つとして、「そのネーミングから自分たちのサービスをどこまで想像してもらえるか?」のような、わかりやすさをどこまで追求するかということがあるのではないでしょうか?
例えば、イベントのチケット関連のサービスであれば「イベチケ」、勉強の記録アプリであれば「スタディログ」など、できるだけわかりやすいネーミングの方が覚えてもらいやすくヒットに繋がりやすいのではないか?と考える人も多いように思います。
ところが、今回我々が調査したヒットサービスのネーミングでは、「ヒットしているサービスは必ずしもわかりやすいネーミングではない」ことが見えてきました。
今回は、既にこの世でヒットしているサービス名の傾向からその理由について考察してみたいと思います。
冒頭でお伝えしたように、ヒットサービスのネーミングにわかりやすさは関係なさそうであることが見えてきました。
今回の調査では、2019年にヒットした商品・サービスやアプリなど計33個を対象に、そのネーミングの「意味が理解できるか?」「既にある言葉か?(それとも造語?)」といった軸でネーミングの特性を分類してみました。
その結果が下記<図1>です。
この分類から見えてきたことは、上記のヒットサービスのうち、TikTokやInstagram、メルカリなど「約8割がサービスの内容を想起できない&造語のネーミング」であったことです。
いかがでしょうか?これはこの分類作業を行った我々も驚いた結果でした。
では、なぜこのような現象が起こるのでしょうか?
「わかりやすくて、どんなサービスかが想像できるネーミングの方が有利」といった、我々が普通に持つ感覚が通用しないように見えるのはなぜでしょうか?
この問題を考えるためのアプローチとして、「わかりやすいネーミング」が持つネガティブな側面を考えてみたいと思います。
「わかりやすいネーミング」は、そのポジティブな側面である「わかりやすさ」に対して、類似サービス(同様にわかりやすいネーミングになる傾向が高い)と紛れやすかったり、またその領域を示す一般名称と近いネーミングとなる場合も多く、印象に残りにくいということが挙げられると思います。
例えば、歌詞の検索サービスの「歌ネット」「うたまっぷ」「うたてん」は、どれもサービス内容については想像しやすいですが、ネーミングが似ているために、ユーザーにとってサービスの認知が曖昧になってしまう可能性があります。
同様に、乱立するマンガ読み放題サービスも「めちゃコミック」「コミックシーモア」「漫画図書館Z」「まんが王国」「マンガボックス」「マンガ読破」「マンガZERO」などについても同じようなことが言えるかも知れません。
つまり、「わかりやすくて、どんなサービスかが想像できるネーミングの方が有利」といった、我々が普通に持つ感覚が通用しないように見える理由としては、「わかりにくい反面、他と混同されにくいため結果的に印象に残りやすい」ということがポイントなのかもしれません。
もちろんネーミングだけですべてが決まるわけではないものの「わかりやすく、覚えやすいネーミングが一概に有利とは言えない」ということが、今回の調査で見えた重要なインサイトと言えると思います。
一方で「わかりにくいネーミング」は、ユーザーの頭の中にその響きが定着する(認知獲得)まで時間がかかるものも多く、ある意味ではハイリスク・ハイリターンな側面もあるネーミングなのかもしれません。
今回ヒットサービスのネーミングの法則を分析するために、我々unlockが独自にフレームワークを開発しました。
このフレームワークに当てはめると、自社の商品やサービスのネーミングを決める際に、自分たちのネーミングアイデアがどのタイプに分類されるかがわかるようになり、チームでのディスカッションの生産性が高まるかも知れません。
上記で掲載したマトリックスのように、縦軸がその言葉がすでに存在するかどうか、横軸がサービス内容の想像のしやいかどうかです。
上記の軸内のそれぞれの象限に名前を付けてみました。
これらの象限について一つずつ説明していきたいと思います。
世の中に存在しない新しい言葉であり、サービス内容も想像しにくいもの。
まるで、政治や経済の社会構造を根本的に覆す革命のように、インパクトを持って世に誕生したという意味から、ここでは「革命家」と名付けています。
例えば、メルカリやYahoo!など、今でこそ誰もが知っているサービスが名を連ねていますが、初見でどんなサービスなのか想像することは難しいはずです。
すでに世の中に存在している馴染みある言葉ですが、サービス内容を想像しにくいもの。
馴染みのある言葉でも、意味を明らかにしないとサービス内容が想像できないという点から「研究家」と名付けています。
例えば、「アマゾン川」の「アマゾン」、「あの人は楽天的な人だ」というときの「楽天」など、どれも既にこの世に存在している言葉です。
また、英語で「線・列」という意味の「ライン」、直訳すると「顔本」を表す「Facebook」なども既にある言葉ですが、いずれも英単語の意味を知っていたとしてもどんなサービスなのかを想像することは簡単ではありません。
すでに世の中に存在している馴染みのある言葉であり、サービス内容も想像しやすいもの。
4つの分類の中で最も確実にサービス内容を想像しやすいことから、手堅く確実という意味を持つ堅実を使って「堅実家」と名付けています。
例えば、「超特盛」は吉野家のメニュー名ですが、大盛や特盛を超えるボリュームがあることが伝わります。
「スマートニュース」もニュースを伝えてくれるサービスだとわかりますし、「Pairs」もペアの複数形になっていることからカップルをたくさん生み出す恋愛マッチングアプリだと想像がしやすいでしょう。
ここには載せていませんが、他にも「日本経済新聞」や婚活マッチングサービスの「Omiai」などが当てはまります。
世の中に存在しない新しい言葉ですが、サービス内容が想像しやすいもの。
新しい言葉にも関わらず、サービス内容を想像しやすいという点が、人付き合いが上手な人を表す社交家と重なることからここでは「社交家」と名付けています。
例えば、「食べログ」という言葉自体は存在しない新造語ですが、ログが記録を意味することから、何となくどんなサービスなのかは想像できるのではないでしょうか?
他にも、料理レシピサービスの「クックパッド」やラジオサービスの「radiko」、喉の殺菌スプレーの「のどぬ~るスプレー」などが当てはまります。
今回行った分析では、わかりやすさについて以外にもヒットサービスに共通するネーミングの傾向が見えてきました。
サービス名を発話したときの平均文字数を想像の難易度で比較すると、想像難関語が5.2字、想像簡易語が7.0字と、想像難関語の方が短いことがわかりました。
さらに、想像難関語同士である①革命家と②研究家の字数を比較すると、①革命家が4.9字、②研究家が5.4字と、若干ですが①革命家の方が短くなっていることもわかりました。
このことから、サービス内容がわかりにくいものほど短く、さらに馴染みのない新造語を使用するとより短くなると言えます。
その理由を考えてみると、発話時の文字数が想像難関語の方が2文字ほど短いことがわかっていますが、これは記憶保持に関係しているのではないかと思います。
英語学習において、黙読より音読のほうが記憶保持に貢献する可能性が高いと科学的にも証明されていることから、音読が取り入れられるケースが多く見られます。
また、12桁の数字を4桁ずつに区切るだけで記憶しやすくなるように、短いものの方が人の記憶に残りやすいと言われています。
そのことからも、たとえサービス内容がわからなかったとしても、短く言いやすいネーミングの方が人々の記憶に残りやすく、ヒットに繋がるのではないかと思われます。
想像簡易語に分類されるものは、既存語・新造語どちらも複数の単語を合体させているケースが多く見られました。
具体的には、「超+特盛」や「スマート+ニュース」、「乗換+案内」などになります。
ただ単に2つの言葉を組み合わせるだけではなく、メインの言葉と、それを修飾するようなサブの言葉が組み合わされているように思います。
例えば、「超特盛」は特盛がメインで超がサブ、「価格.com」は価格がメインで.comがサブ、「食べログ」は食べがメインでログがサブ、のようなイメージです。
この言葉の強弱が、ただの知っている単語ではなくサービス名として記憶に残りやすく、ヒットに繋がる効果をもたらしているのではないでしょうか。
ただし、似たようなネーミングのサービスが複数ランクインしていないことからも、独自性の高い組み合わせを考える必要がありそうです。
最近ではサービス認知の拡大にSNSを活用するケースも増えています。
広告よりもSNSの影響が強くなっており、ミレニアル世代の約51%が「買い物時にSNSの情報に影響を受けている」というデータもあるほどです。(出典:マクロミル/ミレニアル世代の消費に関する調査)
つまり、サービスのネーミングそのものがSNS上で検索されるということも少なくはありません。
SNSでは、「ハッシュタグ」といって特定のキーワードに「#」をつけることで言葉をタグ化し、投稿したり検索するということが主流です。(例:#渋谷カフェ #おうち時間)
タグ化されることによって同じキーワードでの投稿を瞬時に検索できたり、趣味・関心の似たユーザー同士で話題を共有したりすることが可能です。
サービスのネーミングがSNS上でハッシュタグ検索されるのであれば、ネーミングは独自性が高い方が自社のサービスにヒットしやすいといえるのではないでしょうか。
理由は、一般的なキーワードだと、自社サービス以外の情報もヒットしてしまうからです。
例えば、Iphoneで世界的に有名なAppleを「#apple」と検索してみます。
もちろん最新のIphone情報や購入したapple watchの投稿なども出てきますが、果物の「リンゴ」の投稿もヒットします。
このように、独自性の低い一般的なキーワードをサービスのネーミングにすると、ヒットする範囲も広がるということが起こります。
特に、SNSを活用する世代に向けたサービスの場合は、このあたりも視野に入れてみてはいかがでしょうか。
いかがでしたでしょうか?ネーミングだけが商品やサービスのヒット成否をきめるわけではありませんが、ヒットしているサービスのネーミングの傾向を考えてみることで、実際にネーミングを考える上でのヒントが見つかったのではないでしょうか?
今回見てきたネーミングに関する考察を以下にまとめとして列挙しておきますので、是非参考になさってください。
・ヒットしている商品/サービスの多くが、その内容を想起できない&造語のネーミング
・サービス内容が想像しにくいものほど短いネーミング
・サービス内容を想像させるなら単語は複数使う