執筆者:unlock代表・津島越朗
「値決めは経営である」 ―― 京セラ・稲盛和夫
曰く、「経営の死命を制するのは値決めです。値決めにあたっては、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、その価格設定は無段階でいくらでもあると言えます。
どれほどの利幅を取ったときに、どれだけの量が売れるのか、またどれだけの利益が出るのかということを予測するのは非常に難しいことですが、自分の製品の価値を正確に認識した上で、量と利幅との積が極大値になる一点を求めることです。その点はまた、お客様にとっても京セラにとっても、共にハッピーである値でなければなりません。この一点を求めて値決めは熟慮を重ねて行われなければならないのです。」(引用:稲盛和夫 OFFICIAL SITE「値決めは経営である」より)
無料であれば、誰でも売れるが利益が残らない。高すぎると、誰も買わない。
ではいくらなのか?――
ここに値決めの難しさがあり、そしてそれが経営の死生を左右する。
稲盛和夫氏ほどの経営者が、プライシングが経営そのものであると主張する所以だろう。
プライシングは、このテーマだけで学術的な本が何冊も書けるほど、本来的には状況や商品特性に応じて多角的に、そして時系列を考慮しながら立体的に考えるべきテーマである。
しかし、この記事執筆の目的ははっきり言ってSEO対策である。すべてを書くわけにはいかないものの、読んでくださった方の時間の無駄になるようなことはしたくない。その範囲でunlockの考え方をご紹介したい。
マルクスの「資本論」によると、資本主義経済下においては、すべてのものに値段がつく。更に、ミクロ経済ではものの価値はその「希少性」によって決まると唱えている。ケインズ経済学では、更に需要と供給の概念を加えて、価格の決まり方を説明している。
つまり、「レアで、みんな欲しいもの」は値段が高いのだ。極めてシンプルである。
モノで言えばダイヤモンド、コレクターが収集するビートルズのレアレコード。人材で言えば学生なら東大生や、転職市場ならITエンジニア、資格職業ではあるが医者や弁護士は、希少性が高く、その少ない供給量を遥かに上回る需要があるから、値段が高い。
一方で、いくら希少性が高くても、需要が少ないものはあまり価値が高まらない。例えば私の息子が描いた私の似顔絵は、私にはとても大切で、しかも一点モノなのだが、私の親族以外に欲しがる人はいないだろう(作風もごくありふれた5歳児の描く似顔絵なのだ)
まずは基本的な3つのプライシングの考え方をご紹介。実際にはこれらの3つをそれぞれ組み合わせて検討する場合が多い。
これぐらいの価値があるという金額(または単にこの価格で売りたいという金額)を提供者側がやや独壇的な地位において設定する方法。
非常に新しいポジションの製品・サービスなどで顧客にまだ相場観がないような場合や、代替手段がないようないわゆるオンリーワンな製品・サービス、または価格決定権のあるマーケットリーダーが取りうる戦略。この戦略を実現できれば、いわゆる「先行者利益」を享受できる。
総じて、既存の類似製品サービスや原価を考えると、遥かに高い値付になっている。
初期のRIZAPや、オーダーメイドの洋服、特許のある製品、難病の薬などが該当する。
※その他の事例についてはunlockのコンサルティングで!
原価や提供するためにかかるコストから価格を考える方法。製造業などに多く見られるプライシング。
価格決定のロジックに合理性があるため、材料高騰時の価格転嫁時に説明がしやすい(残念ながら受け入れてもらいやすいわけではない)。
その他保険や葬式など、コスト構造がイメージしにくい領域で、低価格かつ高い価格透明性で打ち出す際に有効に作用。
市場に存在する既存の競合や、類似製品、代替手段などの価格から、相対的に自社製品の価格を設定する方法。
後発で参入する場合、この観点で品質・機能や、納期・スピードなどを調査・分析し、自社はどのポジションで市場参入するかを決定する。
高機能x低価格でアウトドアウェア市場を席巻したワークマンも、この戦略が非常に有効にしている印象。
上記で見た3つの観点のうち、1のインカムアプローチと、コストアプローチは、自社の事情という意味で「絶対的プライシング」であり、3のマーケティングアプローチは、他社との比較という意味で「相対的プライシング」であると言える。
多くの製品やサービスには、競合があり、代替手段がある。戦略的にプライシングを設定しようと考えれば、結果的に「相対的プライシング」の考え方をせざるを得ない。
相対的であるということは、自ずと市場における自社製品のポジショニング(立ち位置)を決める行為に他ならない。
ポジショニングは、通常下記のように、価格と品質(機能)のマトリックスでプロットする場合が多い。
上記で見たような3つの観点で、ある程度プライシングの方向性を検討した後、下記のような観点でもプライシングを検討し、最終的な価格を決定する。使い方によっては単なる小手先の手法となるため、利用注意。
市場浸透スピードを目的に、最初は安く(又は無料で)提供する手法も見られる。またその逆に、リリース時に高く、後で安くする手法も。ハイエンドユーザーから支持を集め、ある種のブランドを形成した後、マス層に安く提供し、数を取りに行く戦略。
コピー機や、カミソリに代表されるように、本体の値段をやや抑えて、消耗品で回収するモデル。
一見高く見える値段も、単位を変えることで割安感や納得度が高まることがある。例えば、健康食品も1本1万円と言われると躊躇するが、一日あたり数百円で健康が得られると思うとそこまで高くもない気になる。
BtoBサービスでも、自社で採用して教育することを考えると、一見高く思える外部の業務委託やツールを有料で利用する方が費用対効果が良いというメッセージングも多く使われる。
半年や1年の最低契約期間を設けて、一定の売上を確保したり、更にディスカウントを設ける方法。月当たりの最低使用量を設定する場合も。
敢えて高めの金額設定により、そのブランドとしての価値を市場に示す手法。品質が伴っていることと、ブランドイメージ醸成やそのためのストーリーが必要。
ブランド価格と似ているが、高い方が質や効用が高いという印象を与える価格設定。薬などでも、成分は同じでも価格が高い方が、効きそうという印象を消費者に与える場合がある。
交渉などでも、最初に提示された価格がある種の固定観念となりやすい。相場観のない商品の場合も、最初に見たり提示された金額が消費者の頭に非常に強く印象として残り、ある種の基準となる。
その後、それよりもコスパの良いプランやお得な価格を提示することでより魅力が高まる場合がある。
近年、インターネット上で利用が増えている新しいマネタイズ・プライシングの手法についても紹介。
SHOWROOMなどのエンターテイメントプラットフォームにおいて、演者を応援する意味を込めて投げ銭が活用されている。ユーザーが自由に金額を設定する場合や、お花やロケットなど、オンライ上で表現できるギミックをまとまった金額単位で販売する手法も。
福岡ソフトバンクホークスや航空券、ライブチケットなどで、販売終了までの時間や残席数、時期などの要因により金額が文字通りダイナミックに変動する手法。収益の最大化、柔軟なディスカウントができる一方で、管理コストの増大の課題をクリアする必要がある。
軽薄な見せかけだけのプライシングにしないことに加えて、アンケートを盲信しないことも重要。
プライシングを決める際に、しばしばユーザーにアンケートを取る企業もある。「いくらなら買いますか?」という具合に直接質問し、その結果を分析し、適正な価格を決める手法だ。有名なスタートアップのSmartHRもこの手法でプライシングを決めたとのこと。
一見ロジカルで正しそうだが、多くの場合、ユーザーが正しい答えをくれることは少ないと考える(意識的にも無意識的にも)。
実際、ユーザー調査を元にプライシングを行った製品がリリース時に大きく苦戦し、その後大幅な値引きでなんとか必要は購買数を確保したという例は珍しくない。
アンケートにおいて、ユーザーは安い金額を言うというよりも、むしろ高い金額を言うことが多いと思う。
一種の見栄のようなものもあるかも知れない。
しかしそれよりも、アンケートに回答するという場面で、真剣にその商品を買おう(欲しい)と思っていない状態で、正確な答えを得にくいことが最も大きい要因だろう。