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2024.12.13
新規事業の「飛び地」とは? ~飛び地は危険?避けるべき?~
新規事業

近年、企業にとって新規事業の創出は、成長戦略の重要な柱のひとつとなっています。しかし、新規事業のアイデア出しは容易ではなく、多くの企業が課題を抱えています。

本来は、企業が活用できる資源(アセット)を活かして、地続きの事業を展開することが理想的です。その一方で、アセットを活かせる事業がなく、飛び地と言われる領域を検討する企業も少なくありません。

本記事では、アンゾフの成長マトリクスにもとづき、飛び地の概要や実例などを紹介します。

アンゾフの成長マトリクスとは

アンゾフの成長マトリクスは、企業の成長戦略を4つのカテゴリーに分類するフレームワークです。1957年に経営学者イゴール・アンゾフ(Igor Ansoff)によって提唱されました。

アンゾフの成長マトリクスは、縦軸に市場(既存市場と新市場)、横軸に製品(既存製品と新製品)を配置し、4つの戦略を示します。具体的には、既存市場での既存製品の「市場浸透(Market Penetration)」、新市場での既存製品の「市場開拓 (Market Development)」、既存市場での新製品の「製品開発 (Product Development)」、そして新市場での新製品の「多角化 (Diversification)」です。

アンゾフの成長マトリクスを用いることで、企業は成長機会を明確化できるため、戦略的な意思決定が期待できます。

アンゾフの成長マトリクスの構成要素

ここからは、アンゾフの成長マトリクスを構成している4つの要素について詳しく解説します。

市場浸透(Market Penetration)

市場浸透(Market Penetration)は、既存市場において既存製品の販売を拡大する方法です。市場シェアの拡大を目指し、顧客認知度の向上や販促活動の強化を中心に進められます。具体的な施策としては、広告キャンペーンの展開、プロモーション活動の強化、販売チャネルの拡大などが挙げられます。

また、既存顧客のロイヤルティを高めるためのプログラムの実施も効果的です。市場浸透戦略は、比較的リスクが低く、既存のリソースを最大限に活用できるため、多くの企業が最初に取りかかります。

市場開拓 (Market Development)

市場開拓 (Market Development)は、既存製品を新規市場に投入する方法です。

国内市場での飽和状態や成長の停滞を打破するために、海外市場への進出や新たな顧客層へのアプローチを検討します。一例として、製品の輸出や現地法人の設立、現地パートナーとの提携などが挙げられます。

また、市場開拓では、新市場の文化やニーズに合わせたローカライズも欠かせません。市場開拓では、市場調査やマーケティングにより、現地の消費者の嗜好や競合環境を把握します。

製品開発 (Product Development)

製品開発戦略は、既存市場に向けて新たな製品を開発する方法です。既存顧客のニーズの変化や市場環境の変動に対応するために、新製品の投入が求められます。企業は、顧客からのフィードバックや市場調査を通じて、新しい価値を提供できる製品の開発に注力します。

また、製品開発には、R&D投資(研究開発投資)が欠かせません。

R&D投資とは、新製品や技術の開発、既存製品の改良を目的とした投資のことです。競争力を維持・向上させるために、R&Dに資源を投じ、革新を追求します。R&D投資は、技術革新やデザインの改良が競争優位を築く要因となります。

製品開発により、企業は市場での地位を強化し、長期的な成長を実現できるでしょう。

多角化 (Diversification)

多角化戦略は、既存事業とは異なる市場と製品で事業を展開する方法です。リスク分散や成長機会の最大化を目指して、異業種への参入や新規事業の立ち上げを実施します。

多角化の具体例としては、M&Aによる新市場への参入や、技術やノウハウを生かした新製品・サービスの開発が挙げられます。

多角化は、高いリスクを伴う一方で、大きな成長ポテンシャルを持つため、企業の持続的な発展に寄与するでしょう。

新規事業における「飛び地」とは

新規事業における「飛び地」とは、企業が既存の市場や製品から大きく離れた新たな市場や製品に進出する戦略のことです。アンゾフの成長マトリクスにおいては、「多角化」に該当し、既存市場での既存製品とは異なる領域に挑戦することになります。

飛び地戦略は、高いリスクを伴う一方で、成功すれば新たな成長機会を生み出すでしょう。また、既存のビジネスモデルからの脱却を図り、革新的な製品や新市場でのポジションを確立できます。

新規事業における「飛び地」を避けるべき理由

飛び地は、危険であり、避けるべきであるとunlockは考えています。

新規事業における「飛び地」を避けるべき理由は、以下の6つです。

1. 専門性の不足

既存のビジネスから大きく離れた新市場や新製品に進出する場合、企業はその分野に関する知識や経験が乏しいことが多く、競争力を持つことが難しくなります。専門性が不足していることで、顧客ニーズの把握や市場動向の分析が不十分になり、結果的に失敗のリスクが高まるでしょう。

したがって、リソースを最適に活用するためには、既存の強みを活かした新規事業の展開が理想的です。

2. 経営リソースの分散

既存の事業とは異なる新市場に進出すると、人的資源や財務資源、時間が多方面に分散してしまい、既存事業の成長や安定性が損なわれるリスクがあります。リソースが分散すると、重要な意思決定や戦略の実行が難しくなり、各事業の競争力が低下するでしょう。

そのため、既存の強みを活かした事業展開を優先することが、持続可能な成長につながります。

3. 市場理解の不足

既存のビジネスとは異なる新市場に進出する際、企業はその市場の特性や顧客ニーズを十分に理解していません。そのため、適切な事業戦略の策定が難しくなります。市場理解が不足していると、競合の動向や消費者の期待に応えられず、失敗のリスクが高まります。

したがって、既存市場での経験や知識を活かし、徐々に新しい領域に進出する方が成功の可能性を高めます。

4. ブランドの一貫性がなくなる

異なる市場や製品に進出すると、既存のブランドイメージが曖昧になり、消費者に混乱を与える恐れがあります。この結果、ブランド価値が低下し、顧客の信頼を損なうでしょう。

また、ブランドの一貫性が失われることで、企業全体のマーケティング戦略も難しくなり、競争力が弱まります。

5. 技術的な課題

異なる市場や新製品に進出する際、企業はその分野に必要な技術やノウハウが不足していることが少なくありません。そのため、製品開発やサービス提供において困難をともないます。

技術的な課題に直面すると、競争力を維持できず、顧客の期待に応えられません。

また、技術の習得には時間やコストがかかります。リスクを最小限に抑えるためにも、既存の強みを活かした事業展開が理想的です。

飛び地の成功事例

飛び地戦略は、リスクが高い一方で、成功すると大きな利益をもたらします。ここからは、代表的な飛び地の成功事例を2つ紹介します。

富士フイルムの化粧品事業

富士フイルムとは、日本にある精密化学メーカーです。

富士フイルムは、もともと写真フィルムの製造を中心としていました。しかし、デジタル化の進展にともないフィルム事業が縮小したため、化粧品事業に進出しました。この転換は、従来の事業とは異なる全く新しい分野への挑戦であり、飛び地に該当します。

富士フイルムの飛び地における成功の要因のひとつは、技術の転用です。富士フイルムは、写真フィルムの開発過程で培ったコラーゲンの安定化技術や抗酸化技術を化粧品やサプリメントに応用し、これにより既存のコア技術を異なる領域に展開できました。

また、マーケットニーズの把握も重要な要素です。美容やアンチエイジング市場が拡大していることを見抜き、これに自社技術を活用した製品を投入することで、新しい分野での成功を収めました。

さらに、ブランド戦略にも工夫がありました。従来のフィルムや写真のイメージと切り離すため、化粧品ブランドを「ASTALIFT(アスタリフト)」として独立させ、消費者の混乱を防ぎながらブランドの一貫性を維持しました。

このように、技術の転用や市場ニーズの適切な把握、ブランド戦略の工夫が相まって、富士フイルムは化粧品事業で成功を収めました。

ダスキンのミスタードーナツ

ダスキンは、日本にあるクリーンサービス事業を営む企業です。

ダスキンは、主に清掃・衛生用品のレンタル事業を展開していました。しかし、1971年には、クリーンサービス事業とは一転し、ミスタードーナツでドーナッツ販売業務を開始しました。飲食業におけるミスタードーナツの展開は、飛び地的な挑戦といえます。

ダスキンが成功した要因のひとつは、フランチャイズ展開の巧みさです。ダスキンは、ミスタードーナツをフランチャイズビジネスとして展開し、既存の清掃サービス業で培った管理や運営のノウハウを活用して効率的に店舗網を拡大しました。これにより、リスクを分散させました。

また、異業種連携の成功も重要な要素です。ダスキンは、米国のミスタードーナツ社と提携し、日本市場にこのブランドを導入しました。飲食業への進出という異なる領域にもかかわらず、海外で成功したビジネスモデルを日本市場に適応させることでリスクを軽減しました。

さらに、ダスキンのブランドイメージも成功に寄与しています。「清潔」や「家庭向けサービス」といったイメージは、飲食店においても顧客に安心感を提供し、事業の信頼性を高めました。

このように、ダスキンは飛び地である飲食業でも既存のブランド価値を損なうことなく、成功を収めました。

飛び地と言われる事業は「本当に飛び地?」

確かに上記のアンゾフの成長マトリックスでは「多角化」にあたり、飛び地といえます。

しかし、よく見てみると、富士フイルムやダスキンは、それぞれ自社である技術やノウハウを活用しているといえるでしょう。そういった意味では、例え飛び地に見えるようで、実際には純粋な飛び地での成功事例は非常に少ないのかもしれません。

飛び地は、企業のコアコンピタンスやブランド戦略に依存します。

一例として、IT企業がヘルスケア分野に進出する場合、データ分析やユーザーインターフェース設計の技術が応用できるため、実際には関連性のある事業展開といえます。このように、一見異なる分野でも、既存の技術や知識を活用することで、企業は新たな市場での競争力を獲得できます。

飛び地に進出するまでの流れ

飛び地に進出するためには、入念に考えた計画と準備が必要です。

ここからは、飛び地に進出するまでの流れを6つのステップにわけて解説します。

1. 市場調査と分析

新規事業において飛び地に進出するためには、市場調査や分析が不可欠です。

市場調査と分析により、ターゲット市場の特性や競合状況、顧客ニーズを把握できます。市場調査を通じて得たデータは、適切な製品やサービスの開発に役立ち、リスクを低減させるでしょう。

また、消費者の購買動向やトレンドを理解することで、効果的なマーケティング戦略を立案でき、成功の可能性を高めます。

2. 自社の強みとリソースの評価

市場調査と分析が終わったら、自社の強みとリソースを評価しましょう。

自社の強みとリソースを正当に評価することで、既存の技術やノウハウを新しい市場に効果的に適用できるかを判断できます。

また、人的資源や財務資源などのリソースの適切な配分を実施することで、効率的な事業運営が実現でき、成功の可能性を高められます。

3. ビジネスモデルの検証

自社の強みとリソースを評価したら、ビジネスモデルを検証しましょう。

ビジネスモデルを検証することで、新市場での収益性や持続可能性を確認できます。

また、ビジネスモデルの適合性を確かめることで、リスクを事前に把握し、柔軟に戦略を調整できます。

4. パートナーシップの構築

ビジネスモデルを検証したら、パートナーシップを構築しましょう。

パートナーシップを構築することで、異業種の専門知識やリソースを活用できるようになり、迅速に市場参入できます。

また、リスクを分散させ、経営資源の最適化も図れます。とくに、新しい市場においては、地元企業との提携が信頼性を向上させ、効果的なマーケティング戦略を展開できるようになるでしょう。

5. パイロットプロジェクトやテストマーケティングの実施

リスクマネジメントが済んだら、パイロットプロジェクトやテストマーケティングを実施しましょう。

パイロットプロジェクトやテストマーケティングを実施することで、顧客の反応やニーズを把握し、改善点を特定できます。

また、リスクを低減し、リソースの無駄を避ける効果もあります。テスト結果を基に戦略を調整することで、より確実な成功を目指せます。

6. 進捗管理と戦略の見直し

新規事業において飛び地に進出するためには、定期的な進捗管理と柔軟な戦略の見直しが重要です。

市場環境は変化しやすく、顧客ニーズや競争状況も常に変動しています。進捗管理を通じて、目標達成の状況を把握し、問題点を早期に特定できます。また、柔軟に戦略を見直すことで、変化に迅速に対応し、リスクを最小限に抑えられるでしょう。

まとめ

今回は、飛び地の概要や実例などを紹介しました。

飛び地に進出することは、企業のリソースが分散し、市場理解が不足するなどのリスクが伴います。また、既存のブランドイメージと乖離することで、顧客の信頼を損なう恐れもあります。

できるだけ自社アセットを活用できる成長市場を探し、リスクを抑える参入方法を検討しましょう。

問い合わせ先


【代表取締役】
津島 越朗
【設立】
2016年 10月21日
【本社所在地】
東京都渋谷区恵比寿3丁目9番25号 日仏会館5階
【事業内容】
新規事業立上げの支援・コンサルティング
【公式サイト】
https://unlk.jp/