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2025.1.21
撤退基準大全:先進企業から学ぶ新規事業の撤退基準②
新規事業

※本コラムは2024年12月11日(水)に開催した株式会社unlockのウェビナーを、3回に分けて書き下ろしたオリジナルコンテンツです。

前回の記事はこちら:撤退基準大全 第1部:撤退基準はなぜ必要か

第2部:多様な撤退基準

本セミナーでのメインとなるのがこの第2部です。
今回は18社の事例を集めましたので、早速1事例ずつ見ていきましょう。

 

こちらで紹介する実際の会社名も入っていますが、一部、断片的・抽象的な情報もあります。紹介する会社を代表する撤退基準ではないことをご了承の上、ご覧になってください。
(※本記事ではセミナーで映した各社の資料を掲載しておりません)

 

 

最初はサイバーエージェントです。ABEMA TVやウマ娘など、直近でもいくつかヒットがある会社です。
今まで100社以上の新規事業子会社を作っているのですが、新規事業をやるときには必ず分社化してやるのがサイバーエージェントのスタイルです。分社化して、KPIをドライに見るという側面もあるそうです。

 

具体的な撤退基準としては、サービスをリリースして4ヶ月の時点で、コミュニティサービスなら月間300万PV(ページビュー)、ゲームなら月間売上1000万円を超えない場合は撤退。新しい会社ならば3Q連続で粗利が減少した場合は撤退、というのがサイバーエージェントの基準だそうです。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

次はDeNAです。
サービスインキベーション部門という新規事業をたくさんやっている部門があります。この部門では初期開発+初動KPIウォッチ費用として予算1000万円とメンバーを1~3人でスタートさせるそうです。DeNAとしてはやや小さい規模の場合ですね。
キャッシュアウトのタイミングで継続の可否を上長と会議して、ユーザー熱量、満足度の伸びなどのKPIで総合的に見る、というのがDeNAの撤退基準になっています。

 

先ほどのサイバーエージェントに比べてやや抽象的に見えると思いますが、DeNAの場合はこんな形で総合的に決めるのが特徴で、実際に私がDeNAにいた時もこのような形で決まっていました。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

 

3つ目はdely(デリー)です。
「クラシル」という動画をメインにしたレシピサイトで、クックパッドの競合、後発という形で登場しました。
圧倒的1位である大きな先行プレイヤー(クックパッド)がいたので、そこに対抗するべくクックパッドを非常に意識してリリースしたこともあり、「市場で圧倒的に1位を取れる可能性の有無」を撤退基準にしているそうです。

 

その具体的な詳細までは掴めなかったのですが、市場の立ち位置、参入の動機といったところから非常に特徴的なのでご紹介しました。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

続いて、日立製作所です。
一般的に製造業は撤退基準が無い会社が非常に多く、弊社もお取引先に製造業の会社さんが多いのでわかるのですが、その中で日立さんはとても明確な基準をお持ちだと思います。

 

売上高、利益率、営業利益率の目標を8%超に設定し、これを超えること。
5%未満の事業は撤退する、というのが基準だそうです。

コングロマリットとして多くの新規事業を生む会社なので、こうでもしないと上手く回らない、新陳代謝できないということがおそらく背景ではないかと推測します。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

次は、ユニクロのファーストリテイリングです。
かつては農業などの意外な新規事業をやってこられた会社ですが、柳井社長の個人的な方針として、「ご臨終」の基準を新規事業進出前に明確に決めるそうです。要は撤退基準をしっかり決めてスタートしているようです。

 

売上目標に届かないもの、差別化できないものなどはすぐに撤退というような、非常にドライで、あまり情とか、勘案事項を入れないタイプの撤退基準と言えると思います。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

続いて、社長さんが有名なアパレル、雑貨販売のストライプインターナショナルさん。 こちらの撤退基準は、「当初の投資限度額を超えた場合」だそうです。それがいくらなのかは事業によって違うでしょうし、その規模感は不明ですが、 比較的明快な基準をお持ちと言えます。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

それから、yutoriというアパレル会社です。ご存知の方もいらっしゃるでしょうか、確か社長さんが最年少で上場された会社で、業績が非常に好調のようです。
最近では元AKB48のコジハルさんが作ったブランドを買収して話題になったり、若者の帝国を作るとかで社長さんが時々テレビ番組に出たりしています。

 

いくつかブランドを立ち上げるという意味で、新規事業を常にやっているそうですが、1年以内に月間700万円の売上を達成しなかったら自動的に撤退という、 分かりやすく、あえてドライにした目標(基準)をお持ちだそうです。

 

その理由は、同世代の人たちが多い社内はみんなが競争しているようなところであり、社長の好き嫌いとかで決まる組織となると会社としてのほころびや弱さが出てしまうから、という考えがあるからだそうです。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

次は、リクルートです。こちらはあまりドライではない撤退基準です。
数値データが不振であることを理由に突然撤退を判断することはないそうです。事業開発チームがこの先何年かけて問題のブレイクスルー、つまり革新的なアイデアや戦略による突破口を提案できるのかを見て、その都度判断するのがリクルートの撤退基準なのだそうです。

 

撤退基準があって、無いような、都度判断というのがリクルートのスタイル。これは実際に私も10個以上の撤退をリクルートの中で見てきましたが、やはりこのような形でした。私が知る限り、スタート前に明確な基準を決めることもなく、 何らかの共通基準であらゆる事業をジャッジするのも無さそうです。

 

ただし、リクルートの場合は主力の人材企業・人材ビジネスが景気の影響を非常に大きく受けるので、業績が悪くなった時に事業を整理します。外部から見ると芽があるように見える事業でも、割と大胆に整理するので、それもリクルートの特徴だと私は見ています。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

続いてソフトバンク。
こちらは失敗して撤退・清算するとき、グループ全体の事業価値の3割を超える損失が出るか否かで判断しているようです。

 

ソフトバンクさんは多くの事業をやっているため、大と小で基準は違うでしょうが、こんなBalance sheet的な撤退基準を適用する事業はそんなに多くないはずなので、孫さんが大勝負をかけている時の話だと思います。
それでもやはり事業投資会社的な側面が非常に強いと思います。そういう会社らしい 撤退基準の持ち方なのでご紹介をしました。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

それから、メルカリです。
こちらではローンチして3か月ぐらいのPLを、メルカリの初期のデータと比較して決めるのだそうです。

 

もし私がメルカリの社員さんだったら、これはなかなか酷だと思います。なぜかというと、「5年前にメルカリが生まれた状況を再現したい」というのが理由らしく、例えば、サービスをローンチして3ヶ月でどのくらいの広告費を使って、どのくらい成長したかというメルカリの数字を基準に、新規事業をプロジェクト制にして可視化し、ルールを作ってヒリヒリしながらやっているそうです。
雑誌のインタビュー記事で得た情報ですが、こんな大ヒットのメガフィットサービスと比べられるところは、中にいる社員さんにとっては非常に厳しいと思うのです。逆に言えば、そうでなければ意味が無いと考えているということですね。小さな新規事業を作る気は無いということだと、勝手に深読みをしております。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

次は、CARTAというデジタルマーケティング、ECナビ等を運営されているプラットフォームメディアの会社です。
こちらは代表と事業責任者が四半期の粗利や他のKPIを基に、新規事業承認の際に撤退検討ラインを設定し、責任者が役員にもう一度プレゼンすることで再設定可能という形です。
割と多くの会社が実施していそうな方法で、総合的に撤退を判断されていると思います。
※会社を代表する撤退基準ではないことをご了承ください

 

 

続いて、ラクスルさん。
こちらはかなり具体的かつ参考になる情報を得られましたので、詳しくご説明しますが、 事業展開のフェーズを4つに分けて、フェーズごとに撤退基準を設定し、それで都度判断しているそうです。

 

このように、発見、 検証、効率化、拡張という4つのフェーズを置かれています。

それぞれ目的がありまして、まず「発見」はプロダクト/サービスに価値があるのか、 このサービスは無料であれば日々使い続けてくれるのか、と問いからスタートしています。これが非常に有益な情報だと思います。結局、無料であっても人が使ってくれないものはダメだ、ということです。

 

余談ですが、これを作られたのはラクスルの創業者の松本さんで、松本さんは「経営者は質の高い“問い”を投げかけることが重要だ」ということを仰っていました。まさにこの辺りに集約されているのだろうと思います。

 

具体的なKPIとしては「AHAカスタマー」、つまり喜んでくれたお客様の数です。これが50社程度、使ってくれたユーザーの中でのAHAカスタマーが50パーセント以上。半分以上の人が喜んでくれた、満足してくれた、すごいねって言ってくれた、そういったことを基準におよそ1年から1年半の間で見極めるそうです。

 

期間としては長いと思いましたが、現実的に本当にPOCをプロダクト改善しながらやっていくとすぐにこれぐらい時間は経ってしまうので、経験に裏打ちされた情報だと思いました。

 

次は「検証」です。無料なら喜んでくれるとわかった後、やはりお金を払ってもらえないと事業として成立しないので、お金を払っても使う価値があるのかを検証するそうです。
こちらは有料顧客数を50社程度集めるそうです。ポイントは「最初から売り上げを追わない」ところです。

 

続いて「効率化」です。利益を出すというのは、ある方の言葉を借りると、どれくらい工夫ができたのかだと言えるそうです。売上が立つと分かった後に、実際の利益が出るかという順番で考えるということですね。
収益を伴う事業として成立するのか、問い合わせを獲得する方法はあるのか、契約率は十分か、利益を出すには十分な粗利が出ているか。つまり、集客、商談、こういったことに当然コストがかかるわけです。

 

よくCPAと言われる獲得単価の話が非常に大きいのです。事業計画でもよく間違える、読み間違えるポイントです。ここがかなり圧迫していて、結果的に原価は超えても、獲得コストによって利益が出ない新規事業というのは結構あります。ここをしっかりと確認しにいく、ということですね。

 

「セールス/マーケティングチャネルの発見」、やはりこれが1番最初に来ています。私には非常に印象的でしたし、非常に重要なところです。営業成約率、コンバージョン率とこれも同じ話です。ここまでがセットで、どちらかといえば粗利率はその結果です。
この2つが非常に重要で、そこで適切なものが見えてくると、自ずと利益率も出てくるということだと思います。営業、マーケティングの価格設定がどうなのか、それを半年から1年かけて確かめる。この後に初めてスケールに関する話をする形で、ポイントは全てを一緒くたにしない点です。

 

検証することを分解し、各フェーズの中で見るべきポイントを絞って、撤退の判断をしているということですね。例えばいきなり「売上が700万円いってないじゃないか!」というようなことをやっていない、ということです。
これもラクスルだけが正しいわけではなく、これ自体が正解だというわけでもないと思いますが、私としても共感するところは大きいです。

 

 

 

さて、今回のセミナーにあたっては、冒頭に申し上げたように 41社様に撤退基準についてのアンケートに回答いただきました。改めてご協力ありがとうございました。

 

その中で「撤退基準があります」と回答があった6社の撤退基準を、その社名を伏せてご紹介します。

 

 

まずは、金融業界のお客様です。
売上規模は100億~1000億、撤退基準は売上や利益の目標達成状況だそうです。
「撤退基準は効果的だと思いますか?」という問いに対しては、「あまり効果的ではない」とお考えです。
撤退基準を設けても、当初想定していなかったことが要因となり、撤退とならず縮小に留まるから、という理由でした。これは共感される方も多いのではないでしょうか。実際アンケートでもこういったお話が多かったです。

 

2番目は製造業で、売上1000億以上のお客様です。
撤退基準は「3年赤字が続くこと」。非常にシンプルですが、撤退基準に関しては「あまり効果的ではない」とお感じだそうです。理由としては結局ケースバイケースというジャッジになるそうで、その一方、撤退基準は必要だとお考えです。

 

3番目、こちらも同じく製造業で同じ規模のお客様です。
計画時に撤退基準を作成し、KPI未達をどれぐらいまでの期間で未達だったら撤退するかを事前に決めて走るのだそうです。
これに関しては「ある程度効果的である」とお感じだそうです。計画時に何かしらの指標は必要なものとはいえ、ここが難しいところで、環境変化等により 随時KPIは見直されるべきであるとお考えなので、この辺で撤退基準が非常に難しいところです。

 

以後は全て製造業で1000億以上の規模のお客様です。

 

4番目のお客様は、定量評価で予定のKPI未達、シナジーが撤退基準になるそうです。そして撤退基準については「ある程度効果的である」とのことですが、まだそれを開始して間もなく、四半期ごとにチェックしてる段階ということです。

 

5番目のお客様は、個々のテーマでそれぞれに撤退基準を設定しておられます。 事業化の経験がないため、途中のフェーズでの撤退基準しかないものの、技術面・市場面それぞれの観点でできるだけ定量的に設定しているそうです。非常に細かい設定をされている、ということですね。
こちらも撤退基準については「ある程度効果的である」、しかし「効果はあるが、どうしても“動くゴール”になりがちで、撤退基準の重みが、やや軽く見られている」とのことでした。

 

この“動くゴール”という表現。この撤退基準の悩ましい、難しいところだと思いますし、動くゴールで悩んでいる方のお声も非常に多かったです。実際に決断する立場にある人も、同じ苦しさを味わっていると思います。

 

最後の6番目のお客様は、撤退基準を「数年先の市場シェア」とされているそうです。これは「あまり効果的ではない」との回答で、その理由はご記載がなく不明ではありますが、そんな撤退基準もあるということです。

 

 

 

ここからいよいよ、俯瞰的に分析をしていきます。

 

色々見ていただきましたが、パターンを大きく分けると、 計画対比型と状況判断型という2種類に分かれると思います。

計画対比型は文字通り、達成したか・していないか、達成率が何パーセントなのかで判断します。事前に決めているものです。

 

状況判断型は、先程のリクルートのように、その時の市場や自社状況等で、やや総合的に判断します。おそらく最初から撤退基準が決まってない場合が多いのもこちらでしょう。

 

それぞれのメリット・デメリットを計画対比型と状況判断型で、縦に並べ直しました。

 

計画対比型の場合のメリットは、先程のユニクロのように明確な数値基準があって、結果として迅速な意思決定につながって、先送りによる損失を招きにくいという特徴があります。客観的なので、多くの人からの納得を得やすい点があると思います。

 

一方、デメリットはその裏返しです。計画にこだわりすぎて必要な投資を躊躇したり、潜在的な成功機会を逃したり。冒頭のお話でプレミアムモルツはこちらだと生まれなかったのではという推測をしましたが、これを表現しているわけです。
さらにPLベースの場合、 間接コストや初期投資の扱いが難しく、正確な評価が困難になる側面もあるかと思います。

 

 

状況判断型は、計画対比型メリットのたすきがけを裏返してもらうような形でご理解ください。
状況判断型のメリットは、 判断時点で最新の状況を考慮し、計画外の成長機会を見逃さないことです。計画対比型のデメリットとほとんど対応しているというか、このまんまという形です。

 

デメリットとしては、曖昧な判断基準のためにリスク評価が難しかったり、決定に時間がかかったり、組織内で一貫性を保てなかったり、社員の不満に繋がってきたり、というのがメリット・デメリットとしてあると考えます。

 

 

次に、これらをさらに細分化、詳細に分類しましょう。

 

計画対比型・状況判断型をさらに分類すると、KPI型とPL、またはその投資回収率のキャッシュベースに分かれると考えます。

 

状況判断型も3つあり、市場(顧客)を軸にする場合、先程のクラシルさんのようにクックパッドを追いかける競合(競争環境)を軸に判断する場合、自社の状況で判断する場合、と分かれると考えます。

 

それぞれの特徴ですが、計画対比型のKPIの場合、判断が明快で客観的、意思決定が迅速、環境変化への対応が難しい場合があるというデメリットがあります。
これまでご説明したことを改めて細分化した時、どのような形で収まるのかを表にまとめたので、ここでは割愛させていただきます。

 

 

そして、先程ご紹介した(社名を出した)会社の撤退基準をunlockなりにプロットすると、このような形になりました。

DeNAはいろんなところにまたがるのが特徴ですが、総合的に判断していると言えるかもしれません。

 

いよいよ皆さんの会社における「撤退基準を設定する考え方」について、ご説明をさせていただきます。

 

 

※続きはこちらからご確認ください。

 

問い合わせ先


【代表取締役】
津島 越朗
【設立】
2016年 10月21日
【本社所在地】
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【事業内容】
新規事業立上げの支援・コンサルティング
【公式サイト】
https://unlk.jp/