※本コラムは2025年2月12日(水)に開催した株式会社unlockのウェビナーを、前編・後編の2回に分けて書き下ろしたオリジナルコンテンツです。
前回の記事はこちら:ネーミングの威力(前編)


先程ご紹介した内容を再掲します。これらの傾向を踏まえて、自社のプロダクトのネーミングを考えると、間違いだというのはそもそも少ないと思われます。


間違いを犯すことは少ないけれど、それだけでは物足りない、と。実は「どんなプロダクトにも積極的に検討すべきネーミング候補がある」ということが見えてきました。今日はこれを一番のパンチラインとして、皆さんに持って帰っていただきたいと思います。
それは、「造語」ネーミングです。


造語ですね、ぜひ積極的に造語ネーミングをご検討ください。
唐突ですが、皆さんは「ネーミングはわかりやすい方が有利だ」と思いますか?
まず私のほうでChatGPTに聞いてみましたところ、明確に「はい」という返事が返ってきました。やはり、わかりやすいことは大きな強みになります。シンプルかつ覚えやすいブランドは、消費者から支持を得ているという結果も表示されました。
マーケティング学者も、ブランドの想起率、つまり思い出す割合を高めるためには、なるべくシンプルで一貫性のある要素を使うことが重要だと言っています。ネーミングが複雑だと、そもそも消費者の脳内で定着に時間かかったり、正しい綴りや発音を認識してもらえなかったりするリスクがあるため、広告投下などのマーケティング施策があっても、認知度を高めにくいというデメリットがあります、という回答がChatGPTからありました。
でも、本当にそうでしょうか?
ChatGPTの回答に対して、あえてそう投げかけたいと思うのです。
unlockがその結論を出すために選んだわけではないネーミング(合計100件)について、そのネーミングに何の商品・何の機能・何の価値があるのかが、初見でわかるかどうかを改めてチェックしてみました。(※本記事では当該図表を掲載しておりません)
例えば、缶コーヒーのBOSSです。今なら当然わかりますが、発売当初にそのネーミングを見聞きして缶コーヒーとわかるかといえば、まずわからないと思います。Playstationは、わかったりわからなかったりかということで、初見判定は「Yes&No」にしています。Windows 95はシリーズ名なので「Yes&No」に、ポケットモンスターも「Yes&No」にしています。
車のプリウス、カメラのチェキ。これも初見でわからないですね。ファブリーズは人によってはわかるかもしれませんが、ファブリックとブリーズをわかる人も恐らくいないのでNo判定にしています。
これらをサービス・コト、BtoCのサービス・コト、それからBtoB製品・モノ、それからBtoBサービス・コト、合計100件のYes/No/Yes&Noをカウントして円グラフで集計してみました。この結果を出すために我々が集めたわけではない100件のネーミングのラインナップ、フィットサービスに限定していますが、ある種ランダムに抽出したサンプル調査です。(※本記事では当該図表を掲載しておりません)
この結果から、実は「わかりやすい方が有利」とは言い切れないと思います。BtoCでは、約半数ほどが「初見では商品のカテゴリーや価値が想像できないネーミング」なのです。先程のBOSSと一緒です。
企業向けに比べて、BtoCはより多様なユーザーに訴えかける必要があるのにもかかわらず、ヒットサービスに限定していてもその約半数が、初見では何かよくわからないネーミングをつけているのです。
これは皆さんのイメージと異なる結果だったのではないでしょうか。私は改めてこれに驚きました。失敗したネーミングや非常にわかりにくい名前で失敗したものを含めてないだろうといった突っ込みどころはあるものの、一般に想像するネーミングのわかりやすさに対するイメージとは異なる結果と言えるのではないでしょうか。
ちなみにBtoBでは、実はわかりやすいネーミングが多かったので、ちょっと意外でした。
その「わかりやすいこと」は良いことだ、わかりやすいネーミングが良いネーミングだということに対するアンチテーゼとして、特にレッドオーシャン化する市場においては「わかりやすさがかえって邪魔をすることもある」とお伝えしたいです。


左側はマンガアプリのランキングです。電車に乗ると大勢がスマホで漫画を読んでいるのをみかけますが、どうでしょう? なかなか似ている名前が多いですよね。もちろんネーミングだけが全てではありませんが、リストなどの見方によって埋没してしまうというリスクもわかりやすさの中にあるということです。
字が小さくて見えづらいかもしれませんが、右側、歌詞検索サイトもたくさんあります。歌ネット、うたまっぷ、歌てん、歌詞ナビ、こういったものも同じようなことが言えると思います。
それから右下の交通系ICカード。実際の利用エリアは異なるので困ることは少ないかもしれませんが、こういった交通系ICカードにも同じことが見られます。こういう埋没リスクのようなものがあると、わかりやすいのがいつも良いとは言いにくいことがわかります。
こうやって見ると、世の中には「わかりにくい系」のネーミングだらけですね。「わかりにくい」というのは、初めてそのブランド名やネーミングに触れたときに、何のサービスなのか、どういう価値があるのかが全くわからないものです。日常的に使っているサービスがわかりやすいのかというと、実は半分以上のサービス・プロダクトはわかりにくいに分類されるネーミングだと思います。
その代表格がYouTubeです。YouTubeも初めて見たとき全然わからない、特に日本人にはわからないと思います。Googleもわからないと思いますが、毎日使っていますよね。何十年と見ているヤフーニュース、「ヤフー」って叫び声だというCMもありましたけれど。Zoom等のITサービスだけではなく、女性に大人気のカーブス、ChatGPT、インスタグラム、タイミー、Spotify、Uber、メルカリ、ゼクシィも初見ではわからないですよね。
こういうネーミング、実際に皆さんがほとんど毎日のように使っているネーミングをどういうふうに解釈するかということなのです。
わかりやすくはありません。なぜか。半ば無理やりなところはありますが、日本は言語の受容力が高い部分もあると思います。古来より異なる言語や表記を柔軟に取り込みながら発展してきた言語です。もともと大和言葉(和語)があるのにも関わらず、中国から漢語が来たり、明治以降は外来語が来たり。私もどれくらい横文字を言ったかわかりません。
こういう側面もあります。日本人は新しい言葉が次々と登場することに慣れている。言葉の意味がすぐにわからなくても、五感や響きから受け入れる文化がある。Googleやメルカリといった造語も初めて聞いたけれど、とりあえず受け入れるという言語的措置があるため広まりやすい、ということも言えるのではと考えます。
わかりにくいネーミング(造語)の話をしましたが、わかりやすいネーミングのメリットデメリットをそれぞれ整理してみました。先程、ChatGPTに質問したことを含みます。


ここでお伝えしたいのは、わかりにくいネーミングのメリットは、そもそもネーミングを考えるとき考慮すらされないことが多いことです。
私自身、新規事業のネーミングを決める会議をたくさんやってきましたが、人数が多いプロジェクトで、いきなり造語を出す勇気が無かったりしますし、造語を通す力も(自身の年齢やポジションが)そこそこいったりすることもありますし、経験的に造語があまり出てきません。
もっと重要なのが、「わかりにくい造語のネーミングのメリットがもう考慮すらされない」ということが、私の経験からすると非常に多いと思います。
ですので、今日はこの「わかりにくい造語ネーミングのメリット」をしっかり皆さん認識いただき、わかりにくい造語ネーミングを堂々と発案いただいて、それをメリットと一緒に会議に積極的に通して、また検討してもらう、ということをやっていただければと思ってご紹介しております。
まず、この表の「わかりにくい(造語)ネーミング」のメリットです。独自性が高くて、ブランド化しやすい、短くて覚えやすい。造語は短い必要があるのです。ジャンルの代名詞になる可能性、これは後で少し触れます。他社との差別化が容易。これは独自性と一緒ですね。
わかりやすいネーミングとわかりにくいネーミングは、入れ子構造、つまり裏返しです。わかりやすいネーミングとは結局、説明コストは低くても新規性やインパクトに欠けたり、競合他社との差別化が困難だったり、というところがデメリットです。
AIが発展してきてDXがどんどん進むと、今まで以上に皆が似たようなビジネスを始めることがむしろ増えてくるのではないか、皆が同じ正解、同じ結論にたどり着きやすくなる世の中になるのではと思います。
皆が持つ情報の非対称性がどんどん縮まってくる可能性があり、そうすると誰もが同じような結論になる。同じようなサービスを出すとき、それ自体は先行するものが仮に無かったとしても、やはりネーミングで差別化することも非常に有効な戦略ではないかと考えます。
ご参考までに、代名詞化した造語ネーミングの例もご紹介させてください。今は宅急便といえばヤマト、くらいの状態だと思いますが、この「宅急便」というのは元々ヤマトさんが考えたサービス名なのです。BtoBのビジネスをしていたヤマトさんが、BtoC向けに変更するときに宅急便という名称を初めて使って、今や代名詞化しています。
それから、TOTOさんのウォシュレット。これもウォシュレット以外で何て言葉で言えばいいのかわからないですよね。サランラップ、シーチキン、これらも他に何と言っていいのかわかりません。ウォークマンのようにカテゴリー自体を表すネーミングも、そもそもが造語であるということです。造語の可能性を表す例として見ていただきたいと思います。
では、本日の結論に行きます。


まず一番目、BtoB、BtoC、モノ・コトの4象限をご紹介しました。それぞれヒットしたネーミングの傾向をもとにネーミングを検討すると、おそらく大きな間違いというのは無いと思います。
一方で、検討されることがそもそも少ない造語は、実は大きなポテンシャルがあるにも関わらず、社内会議で「そんなわかりにくい名前が」と諫められてしまうものです。しかし、想像よりも日本人のネーミングの重要性は高く、「そんなわかりにくい名前が」と言っている方も当たり前に使っているのです。最初は全く意味がわからなかった造語を、受け入れて、毎日のように使うことが多いのです。特にレッドオーシャンで非常に競争が激しく混雑している市場で、自社が後発で出す場合のプロダクトについては、ぜひ積極的に造語でのネーミングの検討をお勧めします。
以上を持ちまして、本日のセミナーは終了となります。ご参加いただきありがとうございました。
最後に、次回セミナーのご紹介です。製造業の方向けの内容で「技術の再解釈による新規事業アイディアの考案 ~製造業のアイディエーション戦略~」をお話しさせていただきます。3月12日の同じ時間にオンラインで行いますので、ぜひご参加ください。

