新規事業の立ち上げにおいて、「デザイン思考(Design Thinking)」という言葉を耳にしてきた方もいるでしょう。
10年余りの間に、デザイン思考さえやればイノベーションが起こるという考え方が普及していた時期もありました。
しかし、デザイン思考は一過性の流行ではなく、デザイン思考を用いたのにもかかわらず、新規事業の立ち上げを失敗した企業も少なくありません。
とくに、大手企業においては、数億円規模の研修投資や人材アサインが行われたにもかかわらず、「で、何が生まれたの?」と問われて答えに詰まるケースもあります。
本コラムでは、そんなデザイン思考の実際の効用と限界を、アイデア創出から実行フェーズまでを踏まえて解説します。
目次
デザイン思考は、米スタンフォード大学d.schoolやIDEOの活動が知られ始め、2010年前後から「人間中心設計」や「イノベーションの方法論」としてビジネス書籍やセミナーで注目され始めました。
このタイミングと重なるように、日本ではスタートアップブームが起こり、シリコンバレーに憧れる経営者・担当者が「うちもGoogleみたいな文化を作ろう」と言い始めたことが日本にデザイン思考が広まった起源です。
さらには、経済産業省や経団連も「デザイン経営」「デザイン人材の育成」などを掲げ、行政や大企業からも注目が集まりました。
こうした追い風の中で、企業研修や社内ワークショップとしての「デザイン思考導入」が広がりました。


まず前提として、デザイン思考が「無意味」だというわけではありません。
とくに、アイデア創出フェーズにおいては、その有効性は数々の企業事例から証明されています。
IDEOが関与したプロジェクトでは、地下鉄の自販機上に「時計を置く」というシンプルな提案で売上を改善しました。
これは、ユーザー観察から「利用者は時間を気にしている」ことに気づき、そこからアイデアに昇華した好例です。
また、Googleでも20%ルールや「デザインスプリント」といった仕組みにより、GmailやAdSenseなどのサービスが誕生しました。
このように、ユーザーの課題を起点にプロトタイプを短期間で回すという点で、デザイン思考が活かされています。
さらに、日本国内でも、東急がデザイン思考を通じて社内の起業家人材を発掘・育成したり、オムロンがユーザー共感を通じて腕時計型血圧計という新市場を開拓したりするなど、一定の成果を出している事例もあります。
このように、デザイン思考は極めて有効な火付け役となり得ます。
デザイン思考同様、アイデア出しに活用できる「掛け合わせ」について知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
新規事業を立ち上げる5つのプロセスとは?「掛け合わせ」アイデア思考法についても解説
デザイン思考の活用において、現場でよく見るのは「その後が続かない」ケースです。
一例として、とある大手企業の新規事業開発部門では、1ヶ月かけて付箋まみれのワークショップにより、「イノベーションのタネ」と称するアイデアが多数生まれました。
しかし、半年後にはそのほとんどが棚上げされました。
その理由は、以下の4つです。
つまり、とある大手企業のアイデア出しが上手くいかなかった原因は、面白いアイデアは出たものの、事業として成立する条件を満たさなかったため、アイデアを上手く活かせなかったことであるといえます。
新規事業の立ち上げに活かせるアイデア出しを目指す方は、弊社のアイデアプランニングをご利用ください。
デザイン思考には、以下のような誤解と落とし穴があります。
デザイン思考はあくまで「ユーザーの課題を再定義し、アイデアを発想する」ためのフレームワークにすぎません。
それ自体が売上を生むわけではないのにもかかわらず「これでイノベーションが起きる」と期待しすぎると、現場は必ず混乱します。
デザイン思考では"Desirability(顧客ニーズ)"は重視されますが、"Feasibility(技術)"と"Viability(事業性)"が軽視されます。
そのため、デザイン思考によりアイデアを出すことばかりに拘ると、用途や活用法が不明確なアイデアばかり生まれます。
ヒエラルキーが強く、リスク回避傾向が高い日本企業にとって、デザイン思考を前提とする「失敗から学ぶ文化」は導入ハードルが高い考え方です。
デザイン思考への理解を深めたとしても、上申文化や稟議により実行に移せないことがあります。
デザイン思考について、unlockは「適切に使えば一部有効」だが、総じて言えば「あまり有効とは言えない」と考えています。
デザイン思考は「アイデアの破片を破片のまま表出する」ための仕組みとしてはよくできています。
しかし、そこから本当に有効な新規事業の種に昇華させるには、まったく別次元のプロセスと人材が必要です。
一例として、ワークショップの場で量産された「それっぽいアイデア」が図解され、共感の言葉がポストイットで可視化されることは新規事業の立ち上げにおいて有効です。
しかし、量産されたアイデアが活用されることはほとんどありません。
アイデアを組み立て、つなぎ直し、検証し、形にして、外に出すという一連の工程には、根気強くコミットする人材が必要です。
また、その人は、仮説を磨き、矛盾を突き詰め、リスクを引き受け、孤独な判断を重ねる覚悟を持った事業オーナータイプでなければなりません。
デザイン思考では、アイデアを出せても、それをもとに戦略を策定することはできません。
unlockが支援してきた多くの現場でも、「デザイン思考から何かが生まれた」というよりは、結局はその後の粘着質な仮説検証と意思決定のプロセスが、新規事業の核心を形づくってきました。
デザイン思考は、せいぜいその入口にある「言葉を発するための助走台」に過ぎません。
「デザイン思考をやったから」ではなく、「やる人がいたから」事業は立ち上がる――それこそがunlockの現場の実感です。
unlockの新規事業の考え方については、当社代表津島のnoteもご覧いただければと思います。
今回は、そんなデザイン思考の実際の効用と限界について解説しました。
結論として、デザイン思考は新規事業のアイデア出しには有効ですが、事業戦略の策定には向いていません。
デザイン思考はあくまで「破片を並べる技法」であり、それらを組み合わせて事業に仕上げるのは実行者の役目です。
しかし、実際は組み立て役が不在のまま、「たくさんアイデアは出たけど…」というポストイットの山が量産されている事例がたくさんあります。
デザイン思考を活用するときは、出たアイデアをどのように活かすかを考慮してください。

