新規事業の立ち上げにおいて、「全く新しいこと」を追求するあまり、自社アセットと無関係な「飛び地」へ挑戦しようとする企業は少なくありません。
それに伴い、自社の持つ資産や強みを見落としてしまうことがあります。
その一方で、自社の技術やブランド、顧客基盤など「手持ちのアセットを再解釈(リフレーミング)する」ことで、これまで気付かなかったビジネスチャンスが見えてくることがあります。
本コラムでは、自社アセットの棚卸しとリフレーミングの重要性、具体的な企業事例、そして社内で実践するためのワークフローについて解説します。
硬すぎず実践的なトーンで、新規事業企画担当者の皆さんに役立つ視点を提供できれば幸いです。


目次
新規事業の発想を広げる第一歩は、自社の「アセット(資産)」を棚卸しすることです。
ここで言うアセットとは、技術や顧客基盤、人材、ブランド、設備、業界知見、仕入れ先ネットワーク、拠点、チャネルなど、企業が培ってきた有形・無形のあらゆる資源のことを指します。
多くの企業では、自社の強みを当たり前のものとして見過ごしてしまいます。
しかし、当たり前だと感じている自社の強みが他社にはない競争力の源泉であることは珍しくありません。
アセットの棚卸しによって、自社の強みを明確化することで、新規事業の土台が見えてきます。
アセットの棚卸しの一例として、写真フィルム事業で栄えていた富士フイルムは、デジタル化の波でフィルム需要が激減した際、自社が持つ技術アセットの全面的な棚卸しを実施しました。
長年にわたり蓄積した化学素材や画像処理の技術を一覧化し、その本質的な価値を洗い出したことで、自社に不足する要素も明確になり、「足りないものは外部から補おう」という発想に至りました。
このように、自社資源を再確認し強みを言語化するプロセスを経ることで、企業は初めて「何を活かして戦うか」というような事業戦略を描けます。
「リフレーミング」とは、既存の資産や状況を別の視点や目的から捉え直すことで、価値や可能性を再発見する思考法です。
自社にとって当たり前になっている資産を、あえて外から眺めるようにして新たな意義や活用方法を導き出します。
一例として、ある建設会社が「現場で日常的に撮影している施工中の写真データ」を、単なる進捗確認や記録用途にしか使っていなかったとします。
このデータをAI解析やクラウド化と組み合わせると、施工品質の自動チェックや工程の効率改善、さらに新人教育用のナレッジ共有ツールなど、多面的に価値を引き出せます。
こうして、元は業務用の写真記録が、建設DXを支える中核サービスへと転換されます。
これがまさにリフレーミングの効果です。
リフレーミングの出発点は、「この資産は本当に今の使い方が最適か?」という問いです。具体的には、以下のような切り口で資産を見直すと、新しい可能性を見出せます。
リフレーミングで重要なのは、「自社の視点」ではなく「外からの視点」を意識することです。
長年使っている設備やノウハウも、社外の人間にとっては十分にユニークで価値あるものに見える場合があります。
社内でユーザーや取引先を招いてディスカッションし、率直な印象を聞いてみるだけでも、新しいアイデアの糸口をつかめるでしょう。
また、リフレーミングすることで、アイデアを創出するだけでなく、組織の思考の柔軟性を高められます。
一例として、単なるブレストではなく「この資産を他業界で活かすとしたら?」、「このアセットを“モノ”ではなく“コト”として提供するなら?」など、フレームそのものを変える問いを設定することで、チームの発想力は格段に広がります。
市場調査を通じて自社の強みやアセットを分析したい方は、弊社のマーケットリサーチをご利用ください。
新規事業は、「自社アセットの再発見→別視点での解釈→新規事業アイデア創出」という流れで創出します。
企業規模や業種によって多少アレンジは必要ですが、「Inside-Outの強み」と「Outside-Inのニーズ」を結び付け、社内外の力を融合することで、新たな価値を生み出せます。
ここからは、自社アセットを活かした新規事業創出の具体的なワークフローの一例を紹介します。
まずは、社内の有形・無形の資産を書き出し、その本質的な価値や強みを言語化します。具体的には「この技術の強みは何か?」や「このブランドが市場にもたらす信用はどの程度か?」といった問いを投げかけ、自社の価値や強みを深掘りしましょう。
アセットの棚卸しと価値の言語化で重要なのは、社内の様々な部署を巻き込むことです。
一例として、技術部門だけでなく、営業やマーケティング、人事まで交えてワークショップを開くと、普段は認識されていない資源(「長年の取引関係」や「独特の企業文化」など)が浮かび上がります。
また、社外の識者や他業界の人から意見をもらうと、自分たちでは当たり前すぎて気付かない強みを見つけられます。
次に、現在の市場環境や顧客の潜在的ニーズを調査しましょう。
新規事業のネタを自社内資源から探す場合でも、外部の課題やニーズと結び付かなければ事業にはなりません。
自社の強みマップを眺めつつ、「この技術で解決できる未充足のニーズはないか」、「この資産を活かせそうな成長市場はどこか」をブレインストーミングしてください。
また、顧客から寄せられている要望や業界で最近起きている変化、あるいは社内に蓄積されたお客様の声データなどを改めて分析してください。
デザイン思考(Design Thinking)の手法を取り入れ、現場観察やユーザーインタビューにより課題を発見するのも効果的です。
自社の視点(Inside-Out)と市場の視点(Outside-In)を往復させ、自社アセットと市場ニーズ、この両方のリストを照らし合わせることで、新規事業のタネが見えてきます。
アセットとニーズのリストアップができたら、両者を組み合わせてアイデアを創出しましょう。
アイデア創出で活躍するのがリフレーミング思考です。
具体的な手法として、以下のようなアプローチがあります。
ブレインストーミングでは、量を重視してアイデアを数多く出してください。
その後、「それは顧客に本当に価値をもたらすか」、「自社の強みが活きているか」という基準で絞り込みましょう。
こうして生まれた仮説的な新規事業アイデアは、ビジネスモデルキャンバス(9つの要素で事業構造を整理するフレームワーク)などを使って粗い事業モデルにまとめてみてください。
アイデアの中には、自社アセットだけでは実現が難しいものも出てきます。
その場合は、他社との協業や外部リソースの活用を検討しましょう。
近年は、スタートアップとの連携や、大学・研究機関との共同開発、あるいは異業種企業同士のアライアンスなど、オープンイノベーションによって不足資源を補う取り組みが盛んです。
前述の富士フイルムの例でも、自社にない創薬の知見はベンチャーや大学との協働で補いました。
自社の強みを核に据えつつ、足りないピースは外部から調達する柔軟性が新規事業成功の鍵となります。
大企業であれば、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)や事業提携の仕組みを通じて、有望な技術やアイデアを持つ外部プレーヤーとの接点を持てるでしょう。
しかし、オープンイノベーションは注意が必要です。他力本願度合が強くなったり、協業自体がゴールになりやすい性質があります。詳しくは「オープンイノベーションをやめよう」を参考にしてください。
有望な新規事業アイデアが絞り込めたら、いきなり大規模投資するのではなく、スモールスタートで検証しましょう。
具体的には、以下のようなPoC(概念実証)でビジネスモデルの仮説を検証してください。
PoCで大事なのは、迅速なフィードバックループです。
上手くいかなかった部分は何か、想定外の価値の捉え方はないか、学びをチームで共有しアイデアに磨きをかけてください。
失敗があっても小さいうちであれば軌道修正が利きますし、ユーザーから熱烈な支持を得られれば、自信を持って次のステップ(本格展開)に進めます。
PoCについて詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
新規事業を継続的に生み出すには、単発のアイデアよりも社内のカルチャーや仕組みが重要です。
近年では、社内公募制度や新規事業コンテストを開催して社員からアイデアを募ったり、一定期間新規事業開発に専念できる「社内起業家プログラム」を設けたりする企業も増えています。
一例として、味の素では毎年「A-STARTERS」という社内新規事業創出プログラムを実施し、選抜メンバーが事業化を目指す仕組みを運用しています。
また、組織面では「両利きの経営」すなわち既存事業と新規事業の両方を推進する体制づくりが重要です。
既存事業の論理(安定・効率)に新規事業の種が潰されないよう、既存組織から一歩離れた「出島」チームを作るのも有効な手段です (参考:「両利きの経営」”成功のカギ”~新規事業における既存事業の活かし方とは~)。
実際、福岡フィナンシャルグループが立ち上げた日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」では、本体の銀行組織内から独立したプロジェクトチームを編成し、99%が銀行員という環境からあえて飛び出して異業種の人材と新しいサービスを創り上げました。
このように、既存の枠組みにとらわれない組織運営と人材の多様なコラボレーションが、新規事業成功の推進力となります。
今回は、自社アセットの棚卸しとリフレーミングの重要性、具体的な企業事例、そして社内で実践するためのワークフローについて解説しました。
新規事業開発において、ゼロから何かを生み出すのは容易ではありません。
しかし、幸いなことに、大企業には長年の事業活動で培った多くの資産や強みがあります。それらは使い方次第で「宝の山」になり得ます。
社内に眠る技術や顧客との信頼関係、優秀な人材、ブランドの信用を今一度棚卸しし、新しいフレームで眺め直してみましょう。
最後に読者の皆さんへの問いかけです。
あなたの会社には、どんな隠れたアセットが眠っているでしょうか?
そして、それらを別の視点で捉え直したとき、どんな新規事業の可能性が見えてくるでしょうか?
日々の業務の延長線上では埋もれてしまっている「自社の宝」に光を当て、新たな価値創造の一歩を踏み出してみてください。
その一歩が、貴社の未来の主力事業を生み出す原点になるかもしれません。

