新規事業のビジネスモデル設計|「価値をどう届けるか」を4つの視点で考える
新規事業の立ち上げにおいて、ビジネスモデルは避けて通れない要素です。
しかし、何から手をつければいいかわからないという方も少なくないでしょう。
本コラムでは、ビジネスモデルの基本的な考え方から、その構成要素、設計時によくある落とし穴、実際の成功事例までを解説します。
目次
- 新規事業における「ビジネスモデル」の定義とは
- ビジネスモデルを設計する意味
- ビジネスモデルを構成する4つの要素
- 新規事業のビジネスモデル設計で陥りやすい3つの落とし穴
- ビジネスモデルの成功事例3選|4要素で読み解く
- おわりに:アイデアより設計が問われる時代
1. 新規事業における「ビジネスモデル」の定義とは
新規事業を考える際に避けて通れないのが、ビジネスモデルの設計です。
「ビジネスモデル」について、慶應義塾大学名誉教授の國領二郎氏は、ビジネスモデルを「誰にどんな価値を提供するか、そのために経営資源をどのように組み合わせ、その資源をどのように調達し、パートナーや顧客とのコミュニケーションをどのように行い、いかなる流通経路と価格体系のもとで届けるか、というビジネスデザインについての設計思想」と定義しています。
言い換えれば、ビジネスモデルとは「誰に」「何を」「どのように」届けるかを、経営資源の制約も含めて細かく設計することです。
これはサービス事業に限らず、メーカーやメディアなど、ほぼすべての事業タイプに対応できる思考の枠組みといえます。
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2. ビジネスモデルを設計する意味
では、なぜ新規事業の立ち上げに際して、あえてビジネスモデルという枠組みで考える必要があるのでしょうか。
それは、「単なるアイデア」や「個別機能の良さ」が市場で受け入れられるかどうかは、その価値がどう実現され、どう届けられるかという全体設計によって決まるからです。
どんなに優れた製品でも、誰に向けたものかが不明瞭であったり、適切な価格で届けられなかったり、必要なリソースを調達できなかったりすれば、持続的なビジネスにはなりません。
逆に、既に存在するアイデアであっても、誰に、どのような構造で届けるかを再設計することで、十分に独自のビジネスとして成立し得ます。
ビジネスモデルの設計は仮説検証の起点でもある
ビジネスモデルを設計するプロセスは、単なる図解やフレームワークづくりにとどまりません。
事業の実行可能性とスケーラビリティを検証するための、仮説検証の起点でもあります。
顧客や提供価値、チャネル、コスト構造、パートナー構造などを体系的に言語化・可視化することで、事業の盲点が明らかになり、関係者間での共有や意思決定も加速します。
また、新規事業の立ち上げ初期は、プロダクトも市場も流動的です。
そうした不確実性の中でビジネスモデルを設計するという行為自体が、将来の方向転換に耐えられる準備にもなります。
つまり、ビジネスモデル設計とは、単なる思考整理のためだけではなく、「事業を動かすための設計図」であり、「社内外の共通言語」であり、「持続可能な収益構造の土台」でもあります。
洗い出した要素を一枚に整理する段階では、リーンキャンバスのようなフレームワークを使うと、抜け漏れに気づきやすくなります。
こうした整理のためのフレームワークとしては、ビジネスモデルキャンバスもよく使われます。「顧客セグメント」「価値提案」「チャネル」「顧客との関係」「収益の流れ」「リソース」「主要活動」「パートナー」「コスト構造」の9つの要素を1枚のシートで可視化できる点が特長です。新規事業のように仮説検証のスピードが求められる場面では、より簡易に書き込めるリーンキャンバスが使われることも増えています。
リーンキャンバスを新規事業に活用する方法とは?~ビジネスモデルキャンバスとの違いも解説~
新規事業の立ち上げや市場投入を検討する際に、限られたリソースで最適な戦略を立てることは欠かせません。リーンキャンバスは、顧客セグメントや価値提案、収益の流れなど9つの要素を1枚のシートに整理し、仮説検証のスピードを上げるためのツールです。
3. ビジネスモデルを構成する4つの要素
課題を見つけたら、次に考えるのが、その課題をどのように解決するかという「解決策」です。新規事業では、この解決策を事業として成立させるための仕組みまで設計する必要があります。
一般的に「ビジネスモデル」と呼ばれるものを、unlockでは「ストラクチャー」として捉え、さらにテクノロジー・ターゲット・テーマを組み合わせて、新規事業の解決策を考えるフレームワークとして整理しています。
本コラムでは、収益の仕組みそのものを「ストラクチャー」と呼び、これにテクノロジー・ターゲット・テーマを掛け合わせた全体像を「ビジネスモデル」として扱います。
ビジネスモデルキャンバスのような一般的なフレームワークを思い浮かべる方もいらっしゃると思いますが、本コラムで紹介する4要素は、それをさらに実践に落とし込んだunlock独自の枠組みです。
ビジネスモデルの分類方法は論者によってさまざまですが、unlockでは、以下の4つの要素を組み合わせることで、新たな事業の解決策や事業アイデアを生み出せると考えています。
- 「ストラクチャー」:ビジネスを成立させる仕組み
- 「テクノロジー」:解決できる課題の幅を広げる技術
- 「ターゲット」:価値を届ける相手
- 「テーマ」:着想のきっかけになる切り口

このうち、着目したい課題に対する解決策を考えるアプローチでは、ターゲットやテーマがすでに決まっている場合がほとんどです。
一方で、何かビジネスを考えたいというところがスタート地点になる場合は、ターゲットやテーマを変化させることでビジネスそのものが変わることも多くあります。
以下、4つの要素をそれぞれ見ていきます。
3-1. ストラクチャー:ビジネスモデルの2つの基本型と5つの変化パターン
ここでいう「ストラクチャー」とは、ビジネスを成立させる仕組みのことです。
一般的には、この部分を「ビジネスモデル」と呼ぶことが多いでしょう。
課題さえ見つけられれば、解決策は比較的容易に思いつく場合も多いものです。では、思いつかないときはどうすればよいのでしょうか。
もっとも有効なアプローチは、既存のビジネスモデルを知り、そのモデルを参考に着想を得ることです。
課題は時代の変化や人々の価値観などによって多種多様であり、常に変化し続けます。
その一方で、解決策となるモデルの変化は課題の変化に比べると速度が遅く、パターンもある程度限られています。
unlockでは、ビジネスモデルをまず「どこから対価をもらうか」という軸で2つに分類し、その上でそのビジネスモデルをどう変化させるかという考え方で整理しています。
「利用者課金型」:利用者・購入者が対価を支払うモデルです。作って売る、仕入れて売るなど、もっとも基本的なビジネスモデルで、BtoB、BtoCを問わず、多くのビジネスがこのモデルに当てはまります。
「利用者無料型」:利用者から直接対価を受け取らず、広告主・スポンサー・法人など、利用者以外から収益を得るモデルです。無料アプリや動画、Webメディアなどが代表例です。
unlockでは、世の中のビジネスの多くを、この2つの基本形と、次の5つの視点を掛け合わせることで整理できると考えています。ここでいう「変化」とは、この2つの基本形をどう変形させるかということです。代表的な変化のパターンの一覧は、次のとおりです。
- 「課金系」:フリーミアム、サブスクリプション、成果報酬、従量課金・ばら売り、一括払い・まとめ売りなど
- 「ポジショニング系」:高品質版、廉価版、簡素化・省力化、高速化・急行化、低速化(あえて時間をかけることを価値にする)など
- 「チャネル系」:Web化・EC化、アプリ化、リアル化、フランチャイズ化、多言語化(海外展開)、中抜き・直接取引(D2C)など
- 「所有系」:シェアリング、サブリース、ファブレス、受注生産・買い付け、OEMなど
- 「施策系」:送料無料、後払い、ポイント付与・払い、返金保証、価格明朗化、決済代行など
なお、これら5つの視点は排他的な分類ではありません。実際のビジネスでは、複数の視点を組み合わせることで、新しいビジネスモデルを設計することができます。

3-2. テクノロジー:解決できる課題の幅を広げる要素
2つ目の要素はテクノロジーです。
ほぼ毎日のようにニュースで目にするようになった「AI」をはじめ、さまざまなテクノロジーや科学の進化により、活用できる素材や技術が増えています。
ビジネスモデル(ストラクチャー)自体は従来と同じでも、新たに適用するテクノロジーによって解決できる課題やビジネスが変わり、事業の価値そのものが変わってきます。
代表的なものとしては、AI、ロボティクス、AR・VR・MR、光・量子技術、新素材・ナノテクノロジー、サイバーセキュリティ技術、センシング技術、バイオテクノロジー、多言語の自動翻訳技術、人工臓器や遠隔医療、ブロックチェーン、ビッグデータ、ドローン、IoTなどが挙げられます。
たとえば、ユニクロは、全商品にRFIDタグを付与し、まとめて自動読み取りができるセルフレジを導入しました。小売という同じストラクチャーのまま、会計にかかる時間を大幅に短縮するという新しい価値を顧客に提供しています。
3-3. ターゲット:誰に届けるかで変わる価値
3つ目の要素はターゲットです。
課題を解決するアプローチの場合、サービスを提供するターゲットはすでに決まっている場合がほとんどです。
一方、何かビジネスを考えたいというところがスタートになる場合、ターゲットを変化させることでビジネスそのものが変わることも多くあります。
たとえば、ワークマンは、従来のワーカー向け商品で培った高機能・低価格という強みを活かしながら、アウトドアなどを楽しむ一般客へとターゲットを広げ、新たな顧客層を開拓しました。
RIZAPも、60歳以上を対象とした「シニアプログラム」を展開しています。既存のトレーニングメソッドを、シニア層の健康維持や足腰の強化といったニーズに合わせて展開することで、新たな顧客層への価値提供につなげています。
ターゲットのパターンを検討する際のコツは、性別、年代、居住エリア、職業、可処分所得といったデモグラフィック属性(人口統計学的な属性)をテンポよく入れ替えながら検討することです。
とくに年代については、「60代以上をシニアとひとくくりにし過ぎない」ことが重要です。人口のボリュームゾーンであるだけに、価値観や可処分所得の差が大きいためです。
「誰に」の解像度が低い状態を、次の章で改めて落とし穴として取り上げます。
3-4. テーマ:着想のきっかけになる切り口
4つ目の要素はテーマです。
ターゲットと同様、課題を解決するアプローチの場合はテーマもすでに決まっている場合がほとんどです。
一方、何かビジネスを考えたいというところがスタートになる場合、特定のテーマを当てはめてみることで着想が浮かぶことも多くあります。
このテーマには、いわゆるトレンドが選ばれることが多く、対コロナ、リモートワーク、ヴィーガン、筋トレ(プロテイン)、リファラル採用、働き方改革、エシカル、サステナビリティ(脱炭素を含む)などが代表例です。
以上の4つの要素を組み合わせて課題への解決策を考案したり、既存の新規事業アイデアをブラッシュアップしたりすることができます。
わずかな変更で収益が大きく変わるモデルも多いため、自身のアイデアを見直す際にも活用できます。
4. 新規事業のビジネスモデル設計で陥りやすい3つの落とし穴
ここからは、ビジネスモデル設計でよくある落とし穴を3つ紹介します。
4-1. 「誰に」が曖昧なまま進める
「このサービスは、みんな欲しがるはず」という発想は、ビジネスモデル設計でよくある落とし穴のひとつです。
最終的には誰に売れてもよいのですが、顧客像を曖昧にしたまま進めると、提供価値や流通設計がぶれ、あらゆることがぼやけた状態のまま進行します。
ビジネスモデルを設計するときは、具体的なペルソナ(年齢・職業・ライフスタイルなど)を描き、「誰が困っていて、何を価値と感じるか」を明文化しましょう。
ターゲット設定について詳しく知りたい方は以下記事も参考にしてください。

新規事業のターゲット設定とは|狙い目の見つけ方から検証まで一気通貫で解説
どのようにターゲットを決めればいいかわからないという方は、弊社のターゲットファインダーをご利用ください。
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BtoBに特化したターゲット明確化支援です。新規事業で培ったノウハウをもとに、実践を通して市場に触れ、ターゲットを明確化し、PMFを実現するフローの中で、ターゲット選定に関する悩みを解決します。
4-2. 「収益モデル(マネタイズ)」を後回しにする
「まずユーザーを集めて、あとでマネタイズ」は、リスクが高い戦略です。
新規事業におけるマネタイズモデル8選
マネタイズモデルとは、事業を通じてどのように収益を得るのかを定義したものです。新規事業開発において、マネタイズモデルは事業の成功を左右する重要な要素のひとつとされています。
とくにBtoC事業では、収益モデルの仮説が甘いと、ユーザーは増えても黒字化できず撤退に至ります。
無料モデルで始める場合は、いつどのように有料に切り替えるのか、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)の関係性を検証しましょう。
新規事業の撤退基準とは?|41社調査と18社事例でわかる決め方・判断基準・撤退ラインの設計法
これから新規事業に取り組む方、既存事業の変革を模索する方、新規事業を評価する経営陣に向けて、先進企業の撤退基準をもとに解説しています。
4-3. 「リソースとパートナー戦略」の見込みが甘い
優れたアイデアも、それを実現するリソースがなければ絵に描いた餅です。
とくに社内で開発リソースを十分に確保できていない段階の新規事業では、リソースとパートナーの見込みが甘くなりやすい傾向があります。
ビジネスモデルを設計するときは、自社が持つべき中核的資源(ヒト・モノ・技術)は何か、外部と連携すべき領域は何かを、初期段階から明確にしておきましょう。
5. ビジネスモデルの成功事例3選|4要素で読み解く
ここからは、「誰に」「どんな価値」「どう届ける」「成功のポイント」という4つの項目をもとに、ビジネスモデルの成功事例を3つ紹介します。
① メルカリ:CtoC市場の心理的ハードルを超えた設計
「誰に」:使わなくなったものを捨てるのがもったいないと感じる生活者
「どんな価値」:不用品がお金に変わる、簡単・安全に売買できる
「どう届ける」:アプリのUI/UXを徹底的に簡易化し、匿名配送や売上金のチャージ利用などでCtoC特有の不安(トラブル・面倒)を払拭。手数料で収益化
「成功のポイント」:個人間取引の煩雑さや不安を設計で乗り越え、物流・決済・UXを一気通貫で「わかりやすく・安心に」設計することでCtoC市場を大衆化した
4要素でいえば、ストラクチャー(手数料型)とチャネル(アプリ化)を変えた事例です。
② NVIDIA:顧客セグメントを変えたことでブレイクした
「誰に」:AI研究者やデータセンター事業者(旧来はゲーマーや映像系技術者向けが中心だった)
「どんな価値」:高速で並列処理できる演算リソースに加え、ソフトウェアと統合されたプラットフォーム
「どう届ける」:ハードウェア単体ではなく、CUDAなど独自SDKやAIツール群を含めた開発者エコシステムごと提供し、NVIDIAのGPUを使い続けたくなる開発環境を構築した
「成功のポイント」:同じ技術でも「誰に提供するか」で価値が変わることを示す好例。AIブームでターゲットと用途が変わり、既存技術が別の価値に転化した
4要素でいえば、ターゲットを変えた事例です。
③ chocoZAP:従来のジムとは異なる価値提供で新規層を開拓
「誰に」:運動が続かなかったり、ジムにハードルを感じていたりして、従来のジムに通うのを躊躇していた層
「どんな価値」:月額安価で、スキマ時間に、服装自由で入退室できる。ジムの「面倒さ」を徹底的に排除した
「どう届ける」:無人運営、スマホキー、郊外や商業施設のすき間立地という徹底したローコスト・手軽さの組み合わせに加え、脱毛やセルフエステなど非運動の価値も追加した
「成功のポイント」:「安く・気軽に・気恥ずかしくない」ジム体験という未充足ニーズにフィットし、従来の筋トレ志向ジムとは異なる新カテゴリを生み出した
4要素でいえば、ストラクチャーとターゲットを同時に変えた事例です。
6. おわりに:アイデアより設計が問われる時代
今回は、ビジネスモデルの基本的な考え方と、それを構成する4つの要素、設計時によくある落とし穴、そして実際の成功事例を紹介しました。
新規事業は「思いつき」ではなく「設計力」が問われます。
メルカリも、NVIDIAも、chocoZAPも、「誰に」「どんな価値を」「どう届けるか」を丁寧に設計し直したからこそ、市場で受け入れられました。
同じようなアイデアでも、顧客、提供価値、経営資源の組み方が違えば、まったく別の事業になり得ます。
ぜひ、ストラクチャー、テクノロジー、ターゲット、テーマという4つの視点を携えて、新しい価値創造にチャレンジしてください。

この記事を書いた人
株式会社unlock 代表取締役社長 津島越朗
得意領域
テクノロジー(AI・ブロックチェーン・IoT等)をベースとした既存産業の革新・効率改善サービス(SaaS等含む)の新規事業
企画・開発・拡大(Growth Hack)、0→1(ゼロイチ)
経歴
2005年 株式会社リクルート入社(人材事業営業部)
2008年 同上(インターネットマーケティング局、マーケティング・新規事業企画)
2011年 株式会社ディー・エヌ・エー入社(サンフランシスコにて現地法人のマーケティング組織の立ち上げ)
2013年 株式会社DeNAライフサイエンス(東京大学医科学研究所と遺伝子検査MYCODEの立ち上げサービス&マーケティング責任者)
2014年 株式会社DeNAロケーションズ 代表取締役社長(海外のテクノロジーベンチャーとの合弁企業)
2016年 株式会社unlock設立
