新規事業のPoCとは?事業化につながる設計の5ステップを解説
新規事業の検証手段として、PoC(Proof of Concept:概念実証)は広く定着しました。
一方で、PoCを実施したのに事業化に至らないという悩みも、同じだけ広がっています。
経済産業省が「DXの取組状況について、よく聞かれるのが、PoCからビジネスにつながらないといった悩みである」と公式文書で指摘したのは2019年です。
それから年月が経った今も、PoCの実施自体が目的化し、「やった」という実績だけが積み上がる光景は珍しくありません。
PoCが事業化につながらない原因の多くは、技術力の不足ではなく、設計の不備にあります。
何を検証し、どうなれば次に進むのかを事前に定義しないまま「やってみて考える」PoCは、どれだけ丁寧に実施しても何も証明できないからです。
本コラムでは、PoCの定義と実証実験との関係、新規事業でPoCをやる意味、事業化につながるPoCの設計手順、判断を誤らせる罠、そしてPoC後の意思決定までを一貫して解説します。
PoC(概念実証)とは
新規事業における”PoC(Proof of Concept)”とは、事業アイデアや技術が実現可能かどうかを、本格的な開発投資の前に小さく検証する工程です。
日本語では「概念実証」と訳されます。
事業の核となる仮説を実際に動く形で確かめ、投資判断や計画修正の材料を得ることを目的とします。
簡易版の製品やシステムを作成して実験的に使用し、全体のプロトタイプを作る前の段階で、アイデアが現実に成立するかを確認します。
PoCという言葉はもともと医療や製造業の領域で使われていましたが、現在では新規事業開発やDX推進、AI導入などの文脈で広く用いられています。
似た概念として実証実験、プロトタイプ、MVP、テストマーケティングがあります。
それぞれとの関係を整理しておくと、自社の検証がいまどの段階にあるのかを判断しやすくなります。

PoCと実証実験の関係
「PoC」と「実証実験」は、実務上ほぼ同じ意味で使われています。
行政やメディアの資料でも、PoCの訳語として「実証実験」を充てる例は珍しくありません。
厳密に区別する場合、PoCは技術やコンセプトが成立するかを確かめる初期段階の部分的な検証を指し、実証実験はPoCで確認した仮説を実際の運用環境に近い条件で運用し、効果や問題点を詳しく検証するプロセスを指します。
つまり両者は、検証の段階と規模が異なります。
もっとも、この区別が現場で厳密に運用されているわけではありません。
本コラムでは、両者を「本格投資の前に仮説を小さく検証する工程」として一体のものとして扱います。
PoCとプロトタイプの違い
PoCとプロトタイプは、開発プロセスの異なる段階を示します。PoCは、基本的な概念や理論が実現可能かどうかを部分的に検証する初期段階の試行です。
一方、プロトタイプは、PoCを通じて確認されたアイデアや技術をもとに、実際の製品に近い形で作成される試作品です。プロトタイプにはデザイン、機能、ユーザーインターフェースなど製品の具体的な要素が含まれ、最終製品の完成度を高めるためのテストやフィードバック収集に使用されます。
「成立するかを確かめる」のがPoC、「どう作るかを詰める」のがプロトタイプ、と整理できます。
PoCとMVPの違い
“MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)”は、顧客に価値を提供できる最小限の機能だけを備えた製品を指します。
PoCとの違いは、検証の対象です。PoCが「この技術やコンセプトは成立するか」を確かめるのに対し、MVPは「顧客はこの製品にお金を払うか、使い続けるか」を実際の市場で確かめます。PoCは社内やクローズドな環境でも実施できますが、MVPは実際の顧客に届けてはじめて機能します。
新規事業の検証プロセスとしては、PoCで技術とコンセプトの成立を確認し、MVPで市場の反応を確認する、という順序で位置づけられることが一般的です。
PoCとテストマーケティングの違い
テストマーケティングは、製品やサービスを市場に本格導入する前に、顧客の反応や市場の需要を確認する取り組みです。PoCが開発の初期段階で技術やコンセプトの実現可能性を検証するのに対し、テストマーケティングは開発のより後期段階で、市場受容性や価格設定、販売チャネルの有効性を検証します。

テストマーケティングの具体的な手法や期間設定について詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
成功する新規事業のテストマーケティングとは?具体的な手法や事例をご紹介
なぜ新規事業にPoCをやる意味があるのか
PoCを実施する意味を一言で言えば、「失敗を防ぐため」です。
より正確に言えば、「机上の空論(仮説)」と「市場の現実(事実)」のギャップを、傷が浅いうちに埋めるためです。
社内で磨かれたアイデアも、重要な要素は仮説のまま
新規事業のアイデアは、定量調査や定性調査を経て、社内の審査や指摘を乗り越えてきた有望な案であることが多いでしょう。
しかし、社内プロセスをどれだけ通過しても、事業の成否を左右する重要な要素のほとんどは「仮説」のままです。「本当に顧客が価値を感じるのか」「本当にお金を払うのか」は、本番に近い形でバイアスを排除し、社外の実際のユーザー候補に使ってもらうことでしか検証できません。社内会議でどれほど絶賛された企画であっても、顧客が同じ反応を示すとは限らないからです。
担当者は確証バイアスから逃れられない
検証が必要なもう一つの理由は、人の側にあります。
新規事業の担当者は、企画書を作り込む過程でアイデアに愛着を持ちます。その結果、「顧客もきっとこれを求めているはずだ」という確証バイアスに陥ることが少なくありません。確証バイアスは意志の力では消せないため、仮説を事実と突き合わせる仕組み、すなわちPoCによって外部から補正するしかありません。
PoCがもたらす3つの利益
PoCを実施すると、新規事業に対して次の3つの利益をもたらします。
- 致命的な欠陥の早期発見:顧客が本当に価値を感じるポイントがズレていないかを、本格投資の前に確認できる。
- ピボット(軌道修正)の機会:傷が浅いうちであれば、検証結果をもとにターゲットの修正やサービス機能の作り直しができる。
- 説得材料の獲得:実際のユーザーの反応やデータは、社内稟議を通すための最も強力な材料になる。
検証せずにいきなり市場投入すれば、スピードや短期的なコストは抑えられます。
しかし、致命的な欠陥があった場合や、既存事業で見出した仮説が新規事業では成立しなかった場合、その損失はPoCにかかるコスト(金銭面だけでなく、社内外への説明コストを含む)を大きく上回ることが多くあります。つまり、PoCにかかる費用と時間は、将来の巨額損失を防ぐための保険料であり、成功確率を高めるための必要経費です。新規事業では「小さく産む」という言葉がよく使われますが、PoCはまさに「小さく産む」ための主要な方法論といえます。

新規事業の成功確率をデータで確認したい方は、こちらのコラムもご参考ください。
「新規事業の成功確率は5%」は本当か? -データで読み解く成功確率-
PoCの実施が目的化する「PoC死」という問題
ここまで述べたとおり、PoCは失敗を防ぐための道具です。ところが実際には、PoCを実施すること自体が目的化し、検証を繰り返すだけで事業化に至らないケースが後を絶ちません。
この状態は「PoC死」「PoC倒れ」「PoC疲れ」などと呼ばれ、新規事業やDXの現場で構造的な問題になっています。
公的文書と調査データが示す実態
前述の内容は印象論ではありません。
経済産業省は「『DX推進指標』とそのガイダンス」(2019年7月)において、DXの取組状況についてよく聞かれる悩みとして「PoCからビジネスにつながらない」ことを挙げ、その原因の一つを「顧客視点でどのような価値を生み出すのか、Whatが語られておらず、ともすると、『AIを使ってやれ』の号令で、Howから入ってしまっていること」だと指摘しています。
参照元:経済産業省「デジタル経営改革のための評価指標(『DX推進指標』)を取りまとめました」
また、IT専門調査会社のIDC Japanは、2026年3月に発表した国内AI市場予測の中で、企業ユーザー調査においてPoCで期待する効果が得られなかった経験のある企業が6割に上ると報告しています。
この調査はAI領域を対象としたものですが、公的機関の指摘から7年近く経ってなお、PoCの過半が期待した効果に至っていないという事実は、問題が個別の技術ではなく進め方の構造にあることを示しています。
「PoCを実施した」と「仮説を検証した」は別物
PoC死の議論で最初に押さえるべきことは、「PoCを実施した」ことと「仮説を検証した」ことの区別です。PoCという活動を実施しても、事前に定義された仮説がなければ、得られた結果を判断につなげられません。技術的に動くことは確認できたが、事業として進めてよいのかは分からない。この状態に陥ると、検証結果の解釈が関係者間で割れ、「もう一度検証しよう」という結論に流れます。こうしてPoCが繰り返され、時間とコストだけが積み上がっていきます。
PoC死を生む3つの設計不備
PoC死が起きる構造は、次の3つの設計不備に分解できます。
1つ目は、成功基準の不在です。
「何を確認できれば次に進むのか」が検証開始前に合意されていないと、どんな結果が出ても判断ができません。判断できない検証は、実施しなかったのと同じ結果しか生みません。
2つ目は、検証項目の網羅主義です。
技術の安定性、ユーザーの反応、運用コスト、法規制への適合と、あらゆる項目を一度のPoCで確認しようとすると、スコープが膨らみ、期間とコストが本格開発に近づいていきます。PoCの利点である「小さく速く」が失われ、結果の解釈も難しくなります。
3つ目は、意思決定プロセスの設計不在です。
PoCの結果を誰が、いつ、どの基準で判断するのかが決まっていないと、良い結果が出ても投資判断が先送りされます。経営層の関与がないまま現場だけでPoCを回すと、事業化のタイミングを逃し、「良い検証だったね」で終わります。
3つに共通するのは、いずれもPoCの実施前に解決できる問題だということです。PoC死は実行力の問題ではなく、設計の問題です。

事業化につながるPoCの設計手順【5ステップ】
では、事業化につながるPoCはどう設計すればよいのでしょうか。前節の3つの設計不備を裏返すと、次の5つのステップになります。

ステップ1:検証したい仮説を一文で言語化する
最初に、このPoCで確かめたい仮説を一文で書き出します。「〇〇という課題を持つ△△(対象顧客)は、□□(提供価値)に対して対価を払う」という形式が基本です。一文で書けない場合、仮説が複数混ざっているか、検証対象が曖昧なままである可能性が高いといえます。
仮説の立て方と検証コストの最適化について詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
ステップ2:最も不確実な検証項目に絞り込む
仮説を構成する要素のうち、「これが崩れたら事業が成立しない」かつ「現時点で最も確からしさが低い」項目を特定し、PoCの検証対象をそこに絞ります。すべてを一度に検証しようとする網羅主義は、前述のとおりPoC死の入り口です。一度のPoCで検証するのは原則として1つ、多くても2つの項目に絞り、残りは次の検証に回します。一度に複数の要素を検証すると、どの要素が結果に影響したのかを切り分けられなくなるためです。
ステップ3:成功基準を数値で事前に定義する
検証項目に対して、「この数値を超えたら次に進む」という基準を、PoC開始前に意思決定者を含めて合意します。
たとえば「ヒアリング対象10社のうち3社以上が有償トライアルに合意する」「試用ユーザーの週次継続率が40%を超える」といった形です。基準を事後に決めると、出てきた結果に合わせて解釈が歪みます。期待より低い数値が出ても「初回にしては良い」と読み替えられてしまい、検証が判断として機能しなくなるからです。事前に数値で合意しておくことで、解釈のブレと確証バイアスの両方を抑えられます。
ステップ4:スコープと期間を最小に設計する
成功基準を測定するために必要な最小限の構成を考えます。作り込んだシステムがなくても検証できるケースは多くあります。たとえば課金意向の検証であれば、動くプロダクトではなく、サービス内容を説明する資料と申込フォームだけで確かめられる場合があります。期間についても、「結果が出るまで続ける」のではなく、期限を先に切ります。期限がないPoCは、成果が曖昧なまま延長を繰り返す温床になります。
ステップ5:結果ごとの次のアクションを事前に決めておく
最後に、PoCの結果パターンごとに次のアクションを決めておきます。
基準を満たしたらどの投資判断に進むのか、満たさなかったら仮説のどこを修正するのか、修正の余地がなければ撤退するのか。この分岐を事前に文書化し、意思決定者と共有しておくことで、結果が出てから「で、どうする?」と議論が振り出しに戻る事態を防げます。PoCは実験であると同時に、意思決定プロセスの一部です。判断につながらない実験は、新規事業においては実施する意味がありません。
PoCを成功させる5つの要素
設計手順を押さえたうえで、実施段階でPoCの質を左右する要素を5つ挙げます。
目標設定と成果基準の明確化
設計手順のステップ3と重なりますが、実施段階でも成果基準はチーム全員に共有されている必要があります。現場の担当者が「何のためにこのデータを取っているのか」を理解していないと、収集されるデータの質が下がり、基準に対する判定材料が揃いません。
リソースと予算の適切な配分
PoCの実施には、適切なリソースと予算の配分が求められます。とくに技術検証をともなうPoCでは、必要なインフラや人材をあらかじめ確保できるかどうかが進行速度を左右します。予算は検証の範囲に応じて計画し、検証途中での安易な増額を避けます。予算の追加投入を繰り返すと、「ここまで使ったのだから」というサンクコストの心理が働き、撤退判断を歪めるためです。
チームの選定と役割分担
PoCのチームには、技術的な専門知識を持つメンバーとビジネス側の理解を持つメンバーの両方が求められます。技術側だけで構成されたチームは「動くかどうか」の検証に偏り、事業性の判断材料を取りこぼしやすくなります。各メンバーの役割と責任を明確にし、意思決定者との報告ラインを最初に設計しておきましょう。
新規事業に向く人材の要件について詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
新規事業に向いている人材とは?求められる資質や特徴を交えて解説
タイムラインとスケジュールの策定
PoCの各段階に期限を設定し、進捗を確認するポイントをあらかじめ組み込みます。スケジュールには、途中で得られたフィードバックをもとに軌道修正する余地を持たせます。
ただし、軌道修正と期間延長は区別が必要です。検証項目や成功基準を変えないまま「もう少しやれば結果が出るはず」と期間だけを延ばすことは、PoC死への典型的な入り口になります。
フィードバックの素早い回収とブラッシュアップ
PoCの価値は、実際の顧客から素早くフィードバックを得て、実現可能性を確かめることにあります。得られた顧客の声を分析し、仮説と提供内容をブラッシュアップするサイクルを短く回すことで、事業の推進スピードが上がります。なお、知的財産権やデータ保護法などの法的および規制上の確認は、フィードバック収集を始める前に済ませておく必要があります。社外のユーザーに触れてもらう以上、情報の取り扱いに関する事故は検証全体を止めるリスクになるためです。
PoCの判断を誤らせる3つの罠
設計と実施が適切でも、結果の判断段階に罠が残っています。代表的な3つを紹介します。

罠1:「偽の成功」を生むヒアリング相手の選定ミス
新規事業のPoCで最も警戒すべき罠は、「偽の成功」です。
偽の成功が生じる最大の原因は、適切な相手にヒアリングできていないことにあります。BtoCであれば、協力を頼みやすい友人や知人に聞いてしまうケースが典型です。好意的な関係にある相手は、関係を悪化させたくない心理から「いいね」「たぶん使うよ」と無意識に好意的な回答をします。BtoBであれば、ターゲット企業の選定は正しいのに、企業内の「誰に聞くか」を間違えるケースが典型です。企業は部門や役職によって抱えている課題もKPIも異なるため、現場向けツールの検証で経営層やたまたま接点のあった購買担当に聞いても、ピントのずれた感想しか返ってきません。
「聞ける人」ではなく、課題の真の当事者であるRight Personに聞けているか。この論点は、米国の商業不動産テックDigsyが「業界ターゲットは正しいのに聞く相手を間違え、好意的だが実態をともなわないフィードバックに事業が殺されかけた」事例とあわせて、こちらのコラムで詳しく解説しています。
新規事業のPoC(概念実証)を正しく判断するために気をつけるべき内容は?
罠2:検証そのものの省略
判断を誤る以前に、確証バイアスが強すぎると検証そのものが省略されます。
世界的な成功企業であるAmazonでさえ、この罠で手痛い失敗を経験しています。2014年に発売されたスマートフォン「Fire Phone」です。当時、創業者のジェフ・ベゾスは、3Dディスプレイ機能こそが競合に勝てる革新的な差別化要因だと確信していました。そしてベゾス個人の確信が、検証よりも先行してしまい、市場検証を行わないまま4年間開発を続けました。しかし発売してみると、ユーザーにとって3D機能は目新しいだけの仕掛けに過ぎず、日常的な利便性や購買意欲を生む価値はありませんでした。結果として、Amazonは大量の在庫を抱え、約190億円(1億7000万ドル)の評価損を計上して事業撤退に追い込まれました。仮に開発の初期段階でプロトタイプを用いて「この機能にお金を払うか?」というPoCを実施していれば、4年の歳月と巨額資金を投じる前に仮説の誤りに気づけた可能性が高いといえます。
どれほど優れた経営者の直感であっても、事実確認の代わりにはならないことを示す教訓です。
参照元:日経BOOKPLUS
大企業の失敗事例からさらに学びたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
世界的大企業の失敗事例から学ぶ新規事業成功のポイント
罠3:PoCの結果を過信する
逆方向の罠もあります。PoCの結果を、事業全体の成功の証拠として過信することです。
PoCには構造的な限界が3つあります。
第一に、情報が不完全です。PoCは特定の機能やアイデアを部分的に検証するものであり、事業全体の成否や長期的なパフォーマンスまでは分かりません。
第二に、実証環境が限定されます。PoCは通常、制御された環境で行われるため、実際の運用環境や市場条件を完全には反映できません。導入時に予期しない課題が発生する余地は残ります。
第三に、コストが想定を超える場合があります。複雑な技術や大規模なプロジェクトでは、初期検証だけでも多額の費用がかかることがあり、費用対効果の見極めが求められます。PoCの通過は「この仮説は次の投資に値する」ことを示すのであって、「この事業は成功する」ことを示すわけではありません。PoCで確認できた範囲と確認できていない範囲を切り分けて次の検証(実証実験やMVP、テストマーケティング)につなぐことが、結果の正しい使い方です。
【事例】PoCを経てPMFを確認した新規事業
罠を避けながら検証を進めると、何が起きるのでしょうか。
当社unlockが支援し、PoCの過程を経てPMF(Product Market Fit:市場にプロダクトが受け入れられた状態)の達成に至った事例を紹介します。なお、この事業は同業からの参入障壁が低い性質のため、企業名や業種を特定できない形での紹介になります。
詳細な経緯は、代表津島のnote「PMF達成ホヤホヤのサービスからの学び」で公開しています。
検証の経緯
主体は、誰もが知る伝統的な大企業です。本業のプロダクトを顧客へ提供する際に副産物として手に入る素材を活用した、ニッチな新規プロダクトを構想していました。初期仮説では、業種も関心を持つ理由もまったく異なる2種類のターゲットを設定していました。接点が濃く、すぐにアプローチできるターゲット1と、接点は薄いもののプロダクト特性からニーズがありそうなターゲット2です。
ターゲット1は、業界内での影響力からアポイントは容易に取れました。しかし、ヒアリングをやりきった結果、需要を自前で賄えるうえに予算が決定的に不足しているセグメントであることが分かり、断念します。
ターゲット2も当初は、大半が「自社で需要を賄えており、お金を払うほどではない」という反応で、プロジェクトには暗雲が立ち込めました。
転機は2つありました。
1つ目は、プロトタイプの見栄えを完成品に近づけたことです。実質的に同じプロダクトでも、実物に近い見た目で提示するだけで、顧客から本番に近い反応を得られるようになりました。
2つ目は、同じ企業や部署の中でも「会う人」を変え、プロデューサー自身がヒアリングを重ねたことです。同じ経営企画部門であっても、担当がIRなのかM&Aなのかで、見ている視点も関心もまったく異なります。
会う人を変え、ヒアリングで得た気づきを客観的な数字を用いたプレゼンテーションに反映した結果、それまでとは異なる好意的なフィードバックを複数得られるようになりました。最終的に、当初の想定より強気の価格でテスト販売に踏み切ったところ、想定を上回る数の企業から発注を獲得し、PMFの達成を確認するに至りました。
この事例が示す2つの学び
第一に、罠1で述べた偽の成功とは逆方向の罠、すなわち偽の失敗があることです。
ニーズは存在していたのに、Right Personに会えていない段階での「間に合っている(需要なし)」という反応を真に受けていたら、この事業は検証の途中で消えていました。初期段階のネガティブな反応は、仮説の誤りを示すとは限りません。聞く相手、聞き方、見せ方の問題である場合があるため、とくに検証の初期には、得た情報だけで機敏に判断しすぎないことも求められます。
第二に、検証の質を分けたのは、プロダクトの中身ではなかったことです。初期ヒアリング時とPMF達成時のプロダクトは、本質的にはほとんど同じものでした。結果を分けたのは、誰に会うか、誰が会うか、何を見せるかという、検証の設計側です。プロデューサーが社内にこもり、顧客ヒアリングを兼業的な営業担当に任せると、又聞きによって最重要の情報が薄まります。サービスを作っている当事者が顧客に会い続けたからこそ、わずかな言い回しの違いによる反応の差に気づき、資料や説明へ素早く反映できました。
ただし、この事例をきれいな成功法則として読むことには注意が必要です。
実際の経緯には、担当役員の指示でプロトタイプの完成度が偶然高まったことや、ニーズがなさそうな状況でも撤退せず続けたことなど、合理的な設計とは言えない要素が結果に寄与した部分も含まれています。成功事例の切り取りは参考にしつつも、盲信しないことが、事例に向き合う際の前提です。
unlock支援先以外の成功例も知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
新規事業の成功例7選から学ぶ成功要因
PoC後の意思決定:Go、ピボット、撤退
PoCの結果を受けた意思決定は、Go(前進)、ピボット(方向転換)、撤退の3つに分かれます。設計手順のステップ5で述べたとおり、この分岐は結果が出る前に設計しておくものです。

Go:次の検証段階へ進む
成功基準を満たした場合、確認できた仮説を土台に、次の不確実性の検証へ進みます。PoCで技術とコンセプトの成立を確認したなら、次は実際の運用環境での実証実験、市場でのMVP検証、テストマーケティングへと段階を上げていきます。このとき、PoCで得られた実際のユーザーの反応やデータは、社内稟議を通し、次の予算を獲得するための説得材料として機能します。
ピボット:仮説を修正して再検証する
基準を満たさなかったものの、検証の過程で別の有望な仮説が見つかった場合は、ピボットを検討します。ピボットを成功させる条件は、失敗を素直に認め、データに対して柔軟な姿勢で向き合うことです。元の仮説への愛着から、都合の良いデータだけを拾って「部分的には成功だった」と総括すると、修正の焦点がぼやけ、次の検証も曖昧になります。
撤退:基準に基づいて止める
基準を満たさず、修正の余地も見出せない場合は、撤退します。撤退はネガティブな結果ではありません。本格投資の前に「この仮説では事業が成立しない」ことが分かったのであれば、PoCは失敗を防ぐという本来の役割を果たしています。問題は、撤退基準がないまま「せっかくここまでやったのだから」と検証を延命させることです。
撤退の判断基準を体系的に知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。
新規事業の撤退基準とは?|41社調査と18社事例でわかる決め方・判断基準・撤退ラインの設計法
業界や事業タイプごとのPoCの特徴
PoCのスタイルやアプローチは、業界や事業タイプによって異なります。自社の検証を設計する際の参考として、代表的な違いを挙げます。
BtoC事業の場合
BtoC事業では、顧客のニーズを正確に把握することがPoCの中心になります。アンケート調査やヒアリングで顧客の声を直接聞くことに加え、体験会を通じて製品やサービスの実際の使用感を確かめてもらうことで、顧客の反応をリアルタイムで把握できます。BtoC市場は変化が速いため、フィードバックの回収スピードが検証の質を左右します。前述のとおり、ヒアリング相手が知人に偏ると偽の成功を招くため、利害関係のない対象者の確保が設計上の要点になります。
BtoB事業の場合
BtoB事業のPoCでは、ターゲット企業の選定に加えて、企業内の部門と役職の見極めが求められます。同じ企業でも、現場部門と経営層では課題認識もKPIも異なるためです。また、BtoBでは検証相手の数を確保しにくいため、1社ごとのヒアリングの深さと、Right Personへの到達可能性が検証の成否を分けます。
規制産業(製薬など)の場合
製薬会社のように規制の強い業界では、効果や安全性を科学的かつ客観的に検証することが最優先されます。厳密な性能評価や臨床試験に加え、規制当局の要件を満たすためのデータ収集と分析が、PoCの設計段階から組み込まれます。検証スピードよりも検証の厳密さが優先される点で、他業界のPoCとは設計思想が異なります。自社の業界における検証事例や他社動向の調査が必要な方は、当社のマーケットリサーチをご検討ください。他企業や海外の事例を調査し、情報提供しています。

マーケットリサーチ
まとめ:PoCの成否は実施前に決まっている
本コラムでは、新規事業におけるPoC(実証実験)について、定義から設計手順、判断の罠、PoC後の意思決定までを解説しました。
PoCは、机上の空論と市場の現実のギャップを、傷が浅いうちに埋めるための道具です。しかし、経済産業省の指摘やIDC Japanの調査が示すとおり、PoCの実施自体が目的化し、事業化に至らないケースが数多く存在します。その原因は技術力ではなく、設計にあります。検証したい仮説を一文で言語化し、最も不確実な項目に絞り、成功基準を数値で事前に定義し、スコープと期間を最小にし、結果ごとの次のアクションまで決めておく。この設計を実施前に済ませたPoCだけが、Go、ピボット、撤退のいずれであっても、事業を前に進める判断を生み出します。
「PoCを実施した」ことと「仮説を検証した」ことは別物です。
検証として機能するPoCを設計し、新規事業の成功確率を高めていきましょう。株式会社unlockでは、新規事業の構想から検証、実行までの伴走支援を提供しています。PoCの設計に必要なターゲットの絞り込みにはターゲットファインダーを、検証前の事業アイデアの整理にはアイデアプランニングをご利用ください。

この記事を書いた人
株式会社unlock 代表取締役社長 津島越朗
得意領域
テクノロジー(AI・ブロックチェーン・IoT等)をベースとした既存産業の革新・効率改善サービス(SaaS等含む)の新規事業
企画・開発・拡大(Growth Hack)、0→1(ゼロイチ)
経歴
2005年 株式会社リクルート入社(人材事業営業部)
2008年 同上(インターネットマーケティング局、マーケティング・新規事業企画)
2011年 株式会社ディー・エヌ・エー入社(サンフランシスコにて現地法人のマーケティング組織の立ち上げ)
2013年 株式会社DeNAライフサイエンス(東京大学医科学研究所と遺伝子検査MYCODEの立ち上げサービス&マーケティング責任者)
2014年 株式会社DeNAロケーションズ 代表取締役社長(海外のテクノロジーベンチャーとの合弁企業)
2016年 株式会社unlock設立
