企業の幹部候補が知っておくべき新規事業の重要性

大企業の経営者にとって、自社の持続的な成長と生存は最重要課題です。

その中で「新規事業の創出」は、企業が急速に変化する環境に適応し続けるための生命線といえます。

本コラムでは、企業寿命の短縮やAI時代の潮流をデータと事例でひも解きながら、新規事業の重要性を解説します。

1. 企業寿命の短命化とプロダクトライフサイクルの変化

企業寿命とは、企業が設立から存続している期間、または事業が継続している期間のことです。

近年、企業の平均寿命は大幅に短縮しています。

ここからは、企業が短命化している背景や、短命化の原因のひとつであるプロダクトライフサイクルの変化について解説します。

米国における企業寿命の短命化

米国では過去60年で大企業の平均寿命が「75年」から「15年」へと激減しました。

1955年当時にFortune500入りしていた企業のうち、現存してその座に残っているのはわずか60社に過ぎません。

このような結果は、企業がかつてよりも早いスピードで入れ替わり、生存競争が激化していることを示しています。

企業が短命化している背景

こうした企業寿命が短縮している背景には、プロダクトライフサイクル(製品の寿命)の劇的な短縮があります。

技術革新のスピードが増し、消費者のニーズ変化も加速する現代では、ひとつの製品やビジネスモデルが市場において優位でいられる期間がどんどん短くなっています。

一例として、かつて音楽プレーヤーの王者だったウォークマンは数十年君臨しました。

しかし、スマートフォンは毎年のように新モデルが登場し、数年前のモデルがすぐ旧式化しました。

このように、現代は既存事業のみに依存していては企業の将来は危ういといえます。

時代の変化に乗り遅れた事例

実際に、大企業でありながら時代の変化に乗り遅れた例は、枚挙にいとまがありません。

かつて写真フィルムで世界を席巻したコダックは、実は世界で初めてデジタルカメラを開発していながら、自社のフィルム事業に固執しました。

そのためデジタル化の波に乗り遅れ、2012年に倒産しました。

また、携帯電話の覇者だったノキアも、2007年に登場したiPhoneがスマートフォンの定義を塗り替えたときに迅速に対応できず、携帯電話市場での地位を失っています。

さらに、業界最大手だった書店チェーンのボーダーズやDVDレンタルのブロックバスターは、オンライン通販やストリーミングといったデジタル化への対応が遅れ、AmazonやNetflixといった新興企業に市場を奪われて消滅しています。

企業寿命の推移

 図1: S&P500企業の平均寿命推移(年)

1970年代後半には平均30〜35年でしたが、2020年代には15〜20年程度まで短縮すると予測されています。

このような結果から、急速な技術革新と競争激化により企業の新陳代謝が加速していることがわかります。

製品や事業の寿命が短くなる現在、常に新たなビジネスを模索し創出することが企業存続の鍵となっています。

既存事業の成功に安住して変化に乗り遅れると、大企業であっても瞬く間に市場から姿を消しかねません。

2. AI時代における「正解がない挑戦」の重要性

現代はAI(人工知能)の急速な進歩によって、ビジネス環境がさらに不確実になっています。

AIは人間の知識やスキルを次々と取り込み、これまでにも自動化できる業務の多くは、自動化されました。

その結果、今持っている知識や過去の成功体験が驚くほど速いスピードで陳腐化する可能性が出てきました。

実際、世界経済フォーラム(WEF)の報告では「現在の労働者のスキルのうち39%が2030年までに陳腐化する」と警鐘を鳴らしています。

今日の常識や正解が明日には通用しなくなる時代が目前に来ています。

AIは新規事業のアイデア出しなどにも利用されています。

AIを活用したアイデア出しについて詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。

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AI時代に人間が価値を発揮するには

AI時代に人間が価値を発揮するには、AIが既に答えを知っている領域ではなく、「AIも正解を知らない問題」に挑むことが重要です。

AIは、過去データに基づくパターン認識や最適解探索を得意とします。

しかし、前例のない課題やデータが不足している未知の領域ではまだ万能ではありません。

言い換えれば、正解があらかじめ分からない新規事業への挑戦こそが、人間ならではの創造性と洞察力を発揮する場となります。

既存業務を効率よくこなす能力以上に、答えのない問題に取り組む力がこれからのコア人材の必須スキルになります。

答えのない問題に取り組む力以外で、新規事業の人材に必要なスキルについて知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。

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不確実性の高い挑戦はブレークスルーをもたらす

さらに、不確実性の高い挑戦を恐れない文化は、企業に思わぬブレークスルーをもたらします。

一例として、Amazonのジェフ・ベゾスCEOは「発明と失敗は双子のように切り離せない」と述べており、社内で大胆な実験を推奨しています。

実際、Amazonはスマートフォン事業を立ち上げるために、Fire Phoneに数億ドルを投じましたが、失敗しました。

しかし、その過程で得た知見を活かして音声アシスタントAlexaを搭載したEchoを開発し、大成功を収めました。

Echoは、発売当初こそ「キッチンに置く黒い筒?」と懐疑的な目で見られましたが、今では全世界で1億台以上のAlexaデバイスが利用されるヒット製品となっています。

このように「正解がない」領域であっても、仮説と直感を頼りに挑戦することで新たな市場を創り出せます。

経営層は、未知への挑戦を企業文化として根付かせ、社員が失敗を恐れず試行錯誤できる環境を整えなければなりません。

未知の領域への挑戦における成功率を高めるためには、市場調査やターゲティングが重要です。

成功確率についてはこちらのコラムもご参考ください。

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マーケットリサーチ

「検討を進めたい新規事業案の評価や選定を一旦終えたので、次の検討ステップとして踏み込んだ調査を行いたい」「必要な調査メニューだけを選択して、無駄なく堅実なリサーチや検討を行いたい」「単にリサーチを外注するだけではなく、外部の客観的なインサイトやディスカッションを求めている」

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3. 新規事業をリードするために必要なスキルセット

未知の領域に踏み出す新規事業を成功させるには、従来の経営スキルとは異なるマインドセットやスキルセットが求められます。

ここからは、新規事業をリードするために必要なスキルセットを4つ紹介します。

探索的思考(Exploratory Thinking)

探索的思考(Exploratory Thinking)は、地図の無い荒野を進むように仮説を立てて検証しながら道を切り拓く思考法です。

最初から完璧な計画を求めるのではなく、小さく試して学び、軌道修正しながら進みます。

新規事業は、既存事業の延長線で計画を最適化する「分析的思考」だけでは、新規事業のような不確実性の高い分野では通用しません。

経営陣自身が探索者(Explorer)となり、新しいビジネスモデルや顧客価値を模索する姿勢が求められます。

実験文化(Culture of Experimentation)

実験文化(Culture of Experimentation)は、小規模な試行を重ね、失敗から学びながら改善を続ける企業の姿勢や風土のことです。

新しいアイデアは、実践してみないと成功するかどうかがわかりません。

「まず試し、小さく失敗し、学んで次に活かす」というループを回す文化を醸成することで、新規事業の成功率が高まります。

成功確率については「新規事業の成功確率は5%」は本当か? -データで読み解く成功確率-もご参考ください。

「新規事業の成功確率は5%」は本当か? -データで読み解く成功確率-

「新規事業の成功確率は5%」 このような新規事業の低い成功確率に関する話を聞いたことがある方は多いと思います。 ユニクロの柳井正さんも「一勝九敗」という著書を出しており、その厳しい成功確率を語っています。 確かに新規事業 […]

実験文化では、低コスト・短期間で最低限の機能を持つ試作品をつくり、顧客の反応を見ながら改良を繰り返すというサイクルを取り入れています。

これにより、新しいアイデアを市場へ投入する前にマーケットのニーズとマッチするかを検証でき、無駄を最小化できるでしょう。

「計画よりも適応」を重視する実験文化は、不確実性の高い新規事業には欠かせません。

非コンセンサスな発想力

「100人中99人が反対するアイデア」にこそ、イノベーションの種が宿っていることが往々にしてあります。

多数の人が賛成するアイデアは、既に誰かが実行していたり、差別化が難しい平凡なものであったりするでしょう。

一方で、最初は奇抜に見える発想が、大きな変革を生む可能性があります。

経営者は、少数派の意見や現場の奇抜なアイデアに耳を傾け、可能性があれば支援する度量を持つべきです。

一例として、「他人の家に見知らぬ人を泊める」というAirbnbの構想や「自家用車で見知らぬ人を乗せる」というUberの発想は、最初は多くの人に懸念されました。

しかし、人々の懸念を乗り越えた先に、従来になかった巨大市場が生まれています。

常識や社内コンセンサスに囚われない発想を尊重することが、次のイノベーションに必要です。

ユーザー共感力とデザイン思考

新規事業では、今まで顕在化していないユーザーの潜在ニーズを見つけ出す必要があります。

デザイン思考(Design Thinking)は、ユーザーの潜在ニーズを見つけ出す際に役立つフレームワークです。

ユーザーへの徹底的な共感(Empathize)から始まり、問題定義や創造的発想、プロトタイピング、テストという5つのプロセスを通じてユーザー本位のイノベーションを生み出します。

デザイン思考を身につけると、ユーザーの潜在ニーズを探り当て、斬新で価値のある商品やサービスを創出できるようになります。

4. 企業戦略のケーススタディ

ここからは、時代の流れにともなう企業の対応における成功例と失敗例を紹介します。

富士フイルムとコダック

富士フイルムとコダックは、写真フィルムで長年世界市場を二分したライバルです。

しかし、デジタル化の波に対する対応で対照的な結果となりました。

コダックは、デジタルカメラ技術を持ちながらも自社のフィルムビジネスを守るあまり本格的な事業転換に踏み切れず、フィルム需要の急減に耐えられず倒産しました。

一方、富士フイルムは、1990年代からフィルム市場の衰退を見据えて動き始めます。

一例として、自社の強みである化学技術を活かし、デジタル事業や他分野への多角化を推進することで、デジタルカメラそのものも積極開発すると同時に、カメラ以外の新規事業に活路を見出しました。

一例として、富士フイルムは社内の技術資産を棚卸しし、医薬品、化粧品、機能性材料といった異業種への参入に乗り出しました。

写真フィルム製造で培ったコラーゲンや、酸化制御の技術を応用して高機能化粧品(ASTALIFT)を開発し市場投入したほか、フイルム材料を応用したLCDディスプレイ用フィルム(FUJITAC)では世界シェア70%まで上り詰めています。

必要な技術が社内に無い場合は、積極的にM&Aし、医療診断や創薬分野にも進出しています。

その結果、写真フィルムが主力だった2000年前後に比べても売上高を維持・成長させ、企業として存続どころか新たな柱を築くことに成功しました。

実際、富士フイルムはフィルム事業が壊滅的打撃を受けた2000年代において売上を10年で57%伸ばし、コダックは48%減少したとの分析もあります。

消滅した米国の大手企業

図2: ここ15年で消滅した主な大企業の例(米国)

(出所:現代における大企業の平均寿命は15年 – 生き残り戦略としてのイノベーション デザイン会社 ビートラックス: ブログ)

業界トップ企業であっても、時代の変化への対応を誤ると、生き残れません。

一例として、Toys “R” UsやCompaq、Kodak、RadioShack、Circuit City、Blockbuster、Borders、Polaroidなどの名だたる米国企業は、市場から姿を消しました。

富士フイルムとコダックの対比から得られる教訓は、明白です。

大胆に新規事業へ舵を切り、自社の変革を主導できる経営者と企業文化を持つか否かが、劇的な環境変化の中で生き残れるかを左右します。

富士フイルムの当時のCEO(古森重隆氏)は「自ら富士フイルムを破壊する」覚悟で改革を断行したと言っています。

一方でコダックには、自社の看板事業をしがみついて守ろうとするあまり、新しい収益の柱を本格化できない「イノベーションのジレンマ」が存在しました。

このような事例は、新規事業への挑戦が単なる成長機会ではなく、既存企業にとって死活的に重要であることを物語っています。

5. 新規事業を通じて幹部候補が持つべきマインドセット

新規事業開発は、一部門だけに任せておけば良い時代遅れの施策ではありません。

経営層(幹部候補)が率先して取り組むべき戦略課題として重要視されています。

とくに、重要なのは、「次世代のコア人材は新規事業を創出できる経験や能力が必要である」という認識を経営層が持つことです。

今後は、既存事業を効率的に運営できる人材よりも、未知の市場を切り拓ける人材が企業価値を左右します。

新規事業に必要な人材を育成・確保するためにも、経営陣が新規事業に真正面から向き合い、自らロールモデルとなることが必要です。

ここからは、幹部候補が取るべきアクションプランの一例を紹介します。

経営戦略に新規事業を組み込む

中長期の経営計画では、新規事業ポートフォリオを明確に位置付けましょう。

一例として、Googleでは、経営資源の10%を将来の種となる革新的プロジェクトに投資しています。

自社でもコア事業ばかりでなく、一定割合のリソースを探索的な新規事業に充てることで、新規事業の成功率が高まります。

「失敗から学ぶ」文化の醸成

新規事業では、失敗はつきものです。

重要なのは失敗の有無ではなく、そこから何を学び、次に活かすかです。

経営トップが失敗を咎めるのではなく、称賛するくらいの姿勢を示し、社内に実験と学習を奨励するメッセージを発信しましょう。

社内表彰制度で思い切ったチャレンジをしたプロジェクトを称えたり、失敗事例から学ぶ社内イベントを開催したりすることも効果的です。

失敗事例についてはこちらのコラムもご参考ください。

世界的大企業の失敗事例から学ぶ新規事業成功のポイント

現代は、アメリカをはじめとした世界各国に大企業が存在しています。しかし、どの大企業もはじめから素晴らしい実績を残していたわけではありません。失敗を積み重ねて今の成果をあげています。 本記事では、世界的大企業の失敗例をもと […]

イノベーション人材の育成と登用

社員が新規事業創出のスキルを身につけられるよう、リーンスタートアップやデザイン思考のトレーニング機会を提供しましょう。

有望な新規事業アイデアを持つ社員に裁量と支援を提供し、社内起業家的なチャレンジを促すことも効果的です。

社内公募制度で新規事業プランを募り、優秀な案に予算と時間を与えて事業化を試みるのもいいでしょう。

経営層は、メンターとして関与し、必要ならば失敗しても元のポジションに戻れる「安全網」を用意して社員のリスクテイクを後押ししてください。

外部とのオープンイノベーション推進

社内リソースだけに頼らず、スタートアップとの提携やベンチャー投資、産学連携など外部の知恵も取り込み、新規事業の機会を模索しましょう。

経営トップが自ら社外の起業家コミュニティやVCと交流し、アンテナを高く張ることで、自社になかった発想や技術を迅速に取り入れられます。

オープンイノベーションを成功させるポイントについて詳しく知りたい方は、こちらのコラムをご覧ください。

オープンイノベーションとは?メリットとデメリットや成功の秘訣を解説

新規事業開発マネジメントは、プロセスの標準化と効果的な資源配分を通じて再現性を高めます。イノベーションの再現性を高める新規事業開発マネジメント戦略を策定することで、事業運営におけるリスクを軽減し、持続可能な成長を実現する […]

未来志向のマインドセット

新規事業に大切なのは、幹部候補自身が常に「未来思考」であることです。

現在のビジネスモデルがいつか必ず陳腐化することを前提に、次の一手を描き続ける姿勢を持ちましょう。

自社をいつでも壊せるのは自分たちだけという覚悟を持ち、新規事業に取り組むことで、企業の長期繁栄を保証できます。

まとめ

今回は、企業寿命の短縮やAI時代の潮流をデータと事例でひも解きながら、新規事業の重要性を解説しました。

新規事業開発は、困難を伴う挑戦です。

新規事業開発に失敗する企業もたくさんありますが、正解がないからこそ面白く、そして価値があります。

新規事業開発において経営者に求められるのは、未知への好奇心とそれを形にするリーダーシップです。

自社の未来を切り拓く新規事業に経営層がコミットすることで、社員もまた安心してチャレンジでき、ひいては企業全体がイノベーティブに進化します。

幹部候補自らが変化を起こす原動力となり、新たな事業の創出に向けて舵を切りましょう。

この記事を書いた人
株式会社unlock
事業プロデューサー 熊田竜次

得意領域
営業 & コンサルティング、Webマーケティング

経験業種
BtoC:人材、製造業、不動産、エンタメ、インフラ
BtoB:人材、AI開発、ソフトウェア(SaaS)、金融、インフラ

経歴
早稲田大学社会科学部 卒業。株式会社マイナビ、株式会社Speeeを経て現職。
支援プロジェクト数 50社以上 (2026年7月現在)。